波紋




 リナ一行は砂漠の中のオアシスにいた。
 小規模なオアシスで、人が住んでいる様子はなさそうだが、水の補給が出来そうな泉と日差しを遮ってくれる木立がある。
 ちょっとした休憩には十分だった。


 乾いた空気とは違う、植物の作り出すすがすがしい空気を、皆深呼吸と共に胸いっぱいに吸い込む。

「ちょっとお茶にしましょうか」

 そう声を上げたのはフィリアで、次の街までそう遠くないからここでゆっくりしても夕刻前には街に着くとのこと。
 それならば、皆異存があるはずも無く、相も変わらないフィリアの手際の良さであっという間にアフタヌーンティーがセッティングされる。
 琥珀色の紅茶が注がれたカップが各自に配られ、それぞれに楽しむ。


「は〜っ、生き返るわね・・・。もう1杯貰える?」
「あ、私も頂きたいです」

 その2人の言葉に、いいですよ、と言いながらポットに手を伸ばしたフィリアだったが、すぐに申し訳なさそうな表情になる。

「お湯が無くなってしまいました。今汲んできて沸かしますから、ちょっと待っていて下さい」
 そう言って水汲みに行こうとするフィリアを押しとめて、ガウリイがポットを受け取る。

「いいよ、俺が汲んで来る」
 ありがとうございます、やら、よろしく〜、という言葉を背に受けて泉に向かうガウリイ。
 向かう、と言ってもほんの数十歩の距離なので、すぐに泉についてポットに水を汲み上げる。
 水の入ったポットを抱えあげた時、対岸の木立の中に果物が実っているのが目に入った。

 ここを回り込んで行っても5分もかからずに着くか、と考え一度ポットを渡すために皆の元に戻る。

「あっちのほうに果物がなってるみたいだから、ちょっと取って来るな」
「そう?行ってらっしゃい」

 俺も行こうか、と立ち上がるゼルガディスに、たくさん取って来るわけじゃないからいいよ、と言い踵を返した。
 果物を取って戻って来るころには、ちょうどお茶が入っているかな、などと思いながら。



 鬱蒼と生い茂っているわけでもない木立の中は進みやすく、すんなりと果樹の下までたどり着いた。
 上を見上げると赤い果実が熟した良い香りを放っている。
 ただ、手を伸ばしただけでは届きそうも無い位置なので、少し木を登らないと取ることは出来ないようだ。
 大木ではないが、ガウリイが上ったぐらいでは折れそうも無い果樹の幹に足を掛ける。
 ひょいひょいと巧みに登っていく様は、さすがにガウリイと言ったところで、あっという間に果実に手の届く位置まで登った。

 しかしそこに少し問題があった。果樹の特長とも言うべきか枝には果樹を守る鋭い棘が生えていた。
 棘に手や体を引っ掛けないように慎重に果実を収穫していく。そのまま持って降りるのは無理そうなので静かに地面に落としていく。
 最後の1個はかなり腕を伸ばさないといけなかったがそれも落とし、そのまま木を降りるのも面倒だと思い幹から飛び降りた。


 ビリリッッ・・・。

 ドサッ。

「・・・っ・・・・・・、痛」

 着地は上手く出来たが、飛び降りるときに背後にある枝の棘に引っ掛けてしまったらしい。
 背中に手を回せば、背中の中ほどから肩にかけて服が破れ浅い引っ掻き傷が出来ていた。
 上を見上げれば、服の切れ端が枝に引っかかっている。

「・・・あ〜あ」
 ため息をひとつ吐いて、破れてしまった物はしょうがないと早速落とした果実を拾い始める。



 最後の1つを腕に抱え込んだ時、不意に後ろに生まれた気配にガウリイは動きを止めた。

「・・・何か用か」
 相手に攻撃の意思が無いのは分かるのだが、いつまでも背中を見せていたい相手でもないので立ち上がり振り向こうとしたのだが。

 立ち上がろうとする所を、肩を抑えられて止められた。
「何のつもりだ、ヴァルガーヴ」
 不審と苛立ちとで声を掛けるが、言葉ではなく行動で答えを返された。

「んっ・・・、・・・ちょっ、やだって!!」

 服の破れ目から肩甲骨から背中に掛けて傷口も含めて撫でられ、それから逃れようと立ち上がろうとしたが、思わぬ刺激に再び膝を折る。
 濡れて温かいものが背中に触れる感触。

「な、何を!!」
 振り向けばエメラルドグリーンの髪だけしか見えず、表情までは確認できない。
 尋ねなくても感触と音で何をしているのかは分かっているのだが、口で尋ねずにはいられなかった。

「何って、舐めてるんだろ」

 顔を離したヴァルガーヴの表情は非常に不敵な物で、ガウリイは返答に窮した。
 それを良いことにもう一度ガウリイの背中に唇を寄せると、今度は破れ目から顔を覗かせている肩甲骨に歯を立てた。

「っ・・・」
 その刺激で我に返ったガウリイは腕を大きく振り、ヴァルガーヴが少し距離を取った隙にその下から抜け出しヴァルガーヴに向き直った。


「お前がエロいのが悪い」


「・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・はぁ?」
 ガウリイが怒鳴りつける前にヴァルガーヴが踏ん反り返って言った言葉に、ガウリイが返したのは沈黙と、『何を言ってるんだこいつ』という意味を込めた「はぁ?」という言葉のみで。
 それに構うことなくまるで人を諭すかのように、ヴァルガーヴは腰に手を当て語り始める。
「服の破れ目から覗く白い肌に、その白い肌に対照的な赤い直線の傷跡。そしてそれをところどころ金の髪の筋が横切っている」
 一気にそこまで言うと、呆気に取られているガウリイにニヤリと笑った。


「そして感度が良くて、俺が思ったとおりの反応を返す。つい続きをしたくなるだろう?」


「・・・な、何言ってんだお前は!!」

 ガウリイが掴み掛かろうと踏み出すと、足元でグシャという音共に甘い香りが広がる。
 果実が1つ、踏み潰されていた。
 踏んだり蹴ったりだと、うんざりした表情を浮かべるガウリイに、ヴァルガーヴが微笑む。

「なあ、俺が取ってきてやろうか?」

「いらん!!お前に何か貰ったらロクなことにならない!!」
 そう言い放つと、さっさと足元に転がっている果実を拾い集めて歩き始めた。
 その後姿を、ふ〜ん、と眺めていたヴァルガーヴだったがガウリイの横を歩き始めた。
「でもそのままじゃ1つ足りないだろ」

「いい、ゼルと分けて食べるから」

 その言葉に、ヴァルガーヴの表情が険しくなっりそのまま姿を消した。



 すぐに消えたヴァルガーヴを不審に思ったものの、時間が掛かりすぎてリナ達が心配しているかもしれない、という考えのほうが強く駆け出そうとした。
 目の前にヴァルガーヴが現れても、駆け出そうとする足は急には止める事が出来ず、その胸の中に飛び込むような形になってしまう。

「いきなっ、ん・・・ぅ・・・」

 噛み付くように文句を言おうとしたガウリイだったが、逆に噛み付くようなキスに喰われる。
 ヴァルガーヴの勢いと気迫に呑まれたガウリイは、ただ甘受するのみだった。
 激しさに息をすることもままならず、苦しさを相手の胸を叩いて訴えるとようやく開放された。

「・・・ん・・・、はぁ・・・」

 口元からこぼれるどちらの物とも分からない唾液を拭き取る余裕も無いまま、ガウリイは地面に腰を落とした。
 ガウリイが肩で息をしていると、その肩を今度は優しく捕まれた。
 ビクッ、と動きを止めるガウリイに今度は触れるだけのキスをその頬に落として今度こそ本当にヴァルガーヴは姿を消した。


「ちょっと、遅かったわねガウリイ。何かあった」
 一度泉の水で顔を洗ってから皆の元に戻ったガウリイは、いつも通りの笑顔を皆に向けた。
「悪い。木の棘で背中破っちまって・・・」
 そう言って背中を見せれば、服の破れ目と赤い傷跡。
 治癒呪文を使ってくれるアメリアに礼をしながら、ガウリイは取ってきた果実を布に広げた。
「で、1個足りなくてな、俺はいいから皆で食べてくれ」
「え、ガウリイさん。数足りてますよ?」
 フィリアの言葉に、えっ、と数を確認すれば確かに人数分ある。
 苦笑を浮かべるガウリイ。
「俺の勘違いだったみたいだ」
 ガウリイさんってば、という言葉を聞きながら無意識に最後に触れられた頬に手を伸ばしていた。



end


5周年企画、キリリク5525 みたサマのリク
「服が破けたガウリイを見つけたヴァルガーヴ」

いかがだったでしょうか?みたサマ、このような物で良かったでしょうか?
多分イチャラブを予想されていたとは思うのですが、なぜかシリアスっぽく・・・。
でも、ヴァルガーヴがちゃんと攻めっぽいので、これはこれで良かったかな、と。いつも攻めというかボケですからね、うちのヴァルは。

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