秋雨
先程からしとしとと降り始めた雨に、夜の街の空気は急速に下がっていく。
それは窓を閉ざしていた室内も同じ事で、肌寒さを感じる。
隣でうつぶせになり気だるげな表情で枕をかき抱いている彼の肩口まで、それまで申し訳程度にかけられていた毛布を引っ張り上げ、その冷えた外気に晒されていた肌を覆う。
僕の仕草に一瞥した彼は、何も言うことは無くそのまま瞳を閉じた。
ただそのまま寝てしまうには彼は薄着過ぎて、何か上掛けをかけた方がいいのではと僕は周囲を見回す。
しかしざっと見渡した限り予備の毛布等の寝具は無さそうで、目に留まったのは床に落とされた彼の衣類。
ベッドから床へ足を下ろすと、素足に摩れた木材のザラリとした感触と、湿り気を帯びてひんやりとした感触の両方が伝わる。
その床面から冷えてしまっている彼の衣類を拾い上げ、ベッドの方を振り返る。
彼は目を閉じている。
眠っていないのは気配で分かるが、うつらうつらとしているのは事実で、放っておいたらきっと彼はこのまま眠ってしまうのだろう。
元来体の丈夫さが売りの彼のことだからこれぐらいで体調を崩すことは無いのだろうが、僕の気分としてこのまま眠らせてしまうのは遠慮したい。
彼を揺り起こそうとする僕の手が彼の触れる直前、彼がその目を開いた。
ダークブルーに染まった瞳が僕を見つめる。
その瞳から彼の感情を読み取るのは難しくて、ただ僕は曖昧に微笑む。
「ガウリイさん、冷えてきましたから寝る前にちゃんと服を着てくださいね」
その言葉に答えず、彼は徐にベッドから起き上がり彼の上着を差し出している僕の横を通り過ぎ、閉められたいた窓に歩み寄りそれを開け放った。
室内より一層冷たく湿度の高い空気が中に流れ込む。
その冷たい空気に体を震わせる事も無く、彼は窓際へと立ち枠に手をかけ体を一つ伸ばした。
そしてそのまま僕に背を向けたまま動かない。
静かに降る雨は室内に激しく吹き込むということは無かったが、それでもポツリポツリと彼の腕、上半身、顔と濡らしていく。
それでも彼は動くことなく、寧ろそれを望んでいるようで。
まるで雨に浸食されるのを望んでいるようで……。
「ガウリイさん!!」
ふと、雨にうたれて消えていきそうな気がして、意外なほど激しい口調で彼を呼んでいた。
もちろん、雨にうたれたぐらいで人が消えることが無いことぐらい分かっている。分かっているのだが……。
彼を呼ぶのと同時に、その腕を掴まえて後ろに引き雨に濡れない自分の懐に冷えた体を抱きこむ。
無言で僕の顔を見つめる彼の瞳は、雲越しの月明かりを受けてブルーグレーに煌めく。
そしてただ静かな笑みを浮かべている。
「…何してるんですか」
今度はいつもどおりの口調で話せた。
抱きしめた体は確かに実体を持っていて、抱きしめていれば熱も持って、先程の己の考えを確かに否定できることに安堵する。
「……、シャワー、浴びてた」
「いや、これはシャワーじゃないですから、冷たいですし」
そう言いながら、彼の体に付着している水滴を拭っていく。
それと共に彼の体温も上がってきて、そのまま上着まで被せてしまう。
「子供じゃないんだから、ここまでしなくても」
被せられた上着に、もごもごと袖を通しながら彼がぼやく。
それを嗜めながら、僕は彼が開いた窓を閉めた。今度は鍵まで掛ける。
「分別がある大人なら、こんな冷たい雨にわざわざうたれませんよ」
その言葉に、うーん、と悩んでいる様子の彼だったが、また変な気を起こす前にさっさと彼を寝かしつけてしまおう、と考えた僕は彼をベッドに押し戻す。
素直にそれに従い彼はベッドに納まり、毛布を被る。
そして、ふぅ、と小さく息をついた。
やっぱり暖かい方がいいんじゃないですか、何してるんだか、この人は。
「でもさ……」
退散しようとしていた僕の袖を、彼が毛布の中から腕を伸ばして捕まえていた。
「雨にうたれるとそこから自分の色々な物が溶け出していくみたいで、気持ちいいんだからしょうがないだろ」
そういう彼は澄んだ笑顔で、ああ、彼は先程の雨で何かを洗い流したのだろう、と納得する自分に溜息をつく替わりに、袖を掴んでいる彼の手を取りその甲に口付けた。
end
5周年企画、更新して欲しいCPアンケートの第1位「ゼロ×ガウ」です。
こんなのでよかったのかな〜、と思ってはいるんですが。私が書くとついついこんな訳の分からないものに……。
CPっぽくない辺りが、だめだろう、な感じですが。基本私はいつもそうですし〜(苦笑)
ゼロスの突っ込みの辺り、かなりノリノリで書いてました。つい脱線しそうになりましたよ。ギャグ展開もいいな、なんて。