call (闇撒き×ガウ)



「あ、あの〜…………」

 控えめに掛けられた声は、ここ数週間、聞かなかった声で。
 このままこの人生が終わるまで聞かなくても聞こえなくて良かったんだけどな、なんて言ったらこいつはまた消えかけるんだろうな、とは思ったが大人な俺は実行はしなかった。

「どうしたゼロス?」
 振り返れば、そこにあるのは若干青ざめた顔。
 状況的に仕方ないよな。何しろこいつは俺が圧倒的に力関係の違う存在であることを知ってしまったんだから。
 誰かもっと高位の奴が交代してやれよ、と内心思ったがこいつの代役に大物が来ても実際困る、と思い直し、頑張れゼロス、と心の中でエールを送る。
 ゼロスが俺を直視できないでいることは、このさい無視する。

「申し訳ないんですが、貴方はいつあちらに戻られる予定ですか……?」
「直球で聞いてきたな。確かにあんたらが気になるのはそこだろうけどさ。
 とりあえず、旦那の出方次第かな」
「…そう、ですか……」
 この答えを予想していただろう反応に、俺もその反応を予想していて、面白みのない展開。
 なので、ついつい悪戯心が騒ぐ。

「まあ、でもそろそろ旦那に連絡取らないといけないんだよな……」
「えっ………、じゃあ…」
 明らかに喜色を浮かべるゼロス。
「烈光の剣があっちに行ったら連絡取りにくいし」
 勿論、冥王の一件以降、実はこちらに烈光の剣が戻ってきていることはゼロスには知らせてはいない。恐らく赤眼の魔王は気付いていると思うが、あいつは部下に情報を教えるタイプではないから、ゼロスは何も聞いていないだろう。
 その予想通り、ゼロスは喜色を崩していない。
 さてこれからどう俺が楽しもうかと考えていると、軽快な音が部屋に響いた。

 ポンッ。

 急に現れた少年の姿に、ゼロスは目を白黒させている。
 それに気づいた様子もなく、俺に飛びついてくる少年を俺は抱き留める。

「奥方様、主に連絡してくださるんですか?」
 先ほどまでゼロスが浮かべていた喜色は、烈光の剣が浮かべていて、俺はこれは裏切れない。
「あ〜、……うん。そろそろ連絡しようか………」
 嬉しい、という言葉を前面に出してくる烈光の剣に、俺はただ頷くしか出来ない。
 ぐりぐりと頭を撫でれば、嬉しい、と言わんばかりに俺に頭を擦り付けてくるのだから、可愛くてしょうがない。

『まあ実際、俺の力の一部も入っているからな』

 しばらく、頭を摺り寄せられ、それに応えて撫でるという動作を繰り返していたが、部外者がいるという事実にふと気付かされた。

「あの〜、そちらは……」

 再び控えめに声を掛けてきたゼロス。
 一方の烈光の剣は、ゼロスの存在を気に掛ける風もなく、俺の腕を掴んで笑っている。よほど、俺が闇撒きの奴に連絡を取ると言ったのが嬉しかったらしい。
 その烈光の剣の頭に手を置いて俺はゼロスに顔を向けた。
「コレは烈光の剣だ。あのあと旦那が送り返してきてな……」
「……はっ…?」
「まあ、俺の監視役に旦那が烈光の剣をこっちの世界に送り込んできたからな。冥王があっちに送っても、旦那が送り返してくるのは当然なんだよ」
「………」

 おそらく言いたいことは沢山あるのだろうが、その前に考えをまとめているのであろうゼロスは、珍しく目を開いたまま固まっている。
 そのゼロスの観察をしている俺の腕を烈光の剣は引っ張りながら、「いつ連絡してくださるんですか?」と無邪気に尋ねてきた。俺としては、そんな面倒な出来るだけ先延ばししたいところなんだが。

「つまり、貴方があちらに戻られる予定は当分ない、という事ですね……」

「ま、簡単に言うとそういうことだな」
 おそらくゼロスとしては望んでいない事実を、ゼロス自身が口にした。
 その表情はすっかりいつもの澄ましたものになっている。
 事実が確認できて、吹っ切れた部分もあるのだろう。
「それならそれでいいです」
 そのセリフが、何より俺の推測が当たっていた事を証明していた。

 そしてゼロスは要件は終了と言わんばかりに、「それでは」と俺に挨拶をすると空間を渡ろうとしたが、不意にその動きが止まった。
「?」
「そういえば、『奥方様』って呼ばれているんですね」
「…!?さっさと元の所に戻れよ!!」
 ゼロスは余計なひと言を残して、去って行った。
 これは、このネタはこっちの魔族に知れ渡るんだろうなあ、などと考えると憂鬱になる。
 烈光の剣が俺の腕を引っ張りながら、連絡を取ることをせがんでくる姿も、可愛いが、憂鬱になる。


「あいつに愚痴ろうかな……」


おわり



 このあと、ガウリイは闇撒きさんに色々愚痴って復活したそうです。
 色々悪戯しようとして、結局墓穴を掘っているガウリイさんのお話です。
 そしてタイトル負け、というか、タイトルだけ見るとロマンチックな話に見えますね(汗)



ssへ