蛇足

 そのまま去っていくと思っていたヴァルガーヴが、急にガウリイの両肩を掴んだ。
「な、なんだよ……」
 さっきとは違い変な凄みのあるヴァルガーヴに、ガウリイは体を引こうとする。
 しかしそれを許さないようにしっかり肩を抑えられている。今更ながらショルダーガードを付けてきていないことをガウリイは後悔した。ショルダーガードがあれば肩も握掴みにくく、簡単に逃げ出せただろうに。
「いや、お前って本当に髪が長いな……」
「……へ?」
 今更何を言っているんだこいつは、とか、だからなんなんだよ、とか、さっき引っ張ってたのはなんだったんだよ、とかそういったことを思いはしたのだが、結局ガウリイはどれも口には出さず大人しくしていた。
 正確には唖然としていた。
「で……?」
 結局どう言葉を続ければいいか分からず、中途半端な投げ掛けをする。
「それだけだ」
 そう言われても、ガウリイはどう答えたらいいか分からない。ただヴァルガーヴの顔を見つめるのみだった。
 その顔はいたって真剣で、ふざけている様には見えない。
 ふざけている魔族など1人しか心当たりは無いが。
 ヴァルガーヴは何かに納得するかのように数度頷くと、ガウリイの肩から手を離した。
 ガウリイは今のうちと言わんばかりに、数歩後ずさりヴァルガーヴと距離をとる。
「……、まあ髪も手に入ったことだし」
 そう言うヴァルガーヴの手には、さっき引っ張ったときに抜けたのであろうガウリイの髪が数本握られている。
「えっと、それはどういう……」
 距離はとりたいものの、ヴァルガーヴの行動も気になってそこを離れられないでいるガウリイが、恐る恐るといった雰囲気で尋ねる。
「なに、こっちのことだ、気にするな」
 そう言って現れたとき以上に唐突に姿を消してしまった。
「……、その『こっちのこと』が気になるんだけど」
 そのガウリイの途方にくれたつぶやきを聞いたのは姿を現したばかりの太陽だけだった。



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