心音
目を開けると、いつの間にか自分はベッドの上にいた。
横に目をやると、静かな寝息を立てて眠っている彼の人の顔がある。
暗闇の中でも、僅かに開いてその闇を吸い込んでいる唇はよく見える。
しばらくその様子を眺めていたが、彼が目を覚ます様子はない。
きっと深い眠りの中に、彼の意識は沈み込んでいるのだろう。
彼の横というのは居心地は良いのだが、不満に思う。
さっき、目を閉じて自分が眠りに落ちるまではもっと居心地のいいところにいたから。
きっと彼が勝手が悪かったか何かで、そこから自分を追い出したのだろう。
先ほどまで自分がいたのは、彼の上。
彼の胸に頭を預けて、うつらうつらとしていたのだが。
いつの間にか、そこから落とされている。
再びその居心地のいい場所に戻ろうと自分が彼に覆いかぶさるように跨ると、その気配に気づいたらしい彼は僅かに顔をしかめた。
そしてうっすらと開けた瞳で状況を確認した。
「……重い…」
さらに小言を続けるかと思った唇はすぐに閉じられ、瞳はその唇よりも先に閉じられていた。
何よりも眠気の方が勝っているらしい。
それをいいことに再び彼の胸の上に頭を預けて、彼に完全にのしかかっても、彼は僅かに身じろぎをしただけで自分を落とそうとはしなかった。
再び戻ることの出来た安らぐことの出来る空間に、ふぅ、と息をつく。
彼から服越しに伝わってくる体温。
自分を包み込む彼の匂い。
そして何より、彼の胸に耳を当てると聞こえてくる、彼の生きている証の音。
それはとても懐かしい音で、いつまで聞いていても聞き飽きることの無い音だった。
一定のリズムを刻み、柔らかな音で、確かな命を紡いでいる。
強すぎず、弱すぎず、闇の中でもその音が光を孕んでいるかのように安心を与える。
その音をもっと聞きたくて、彼の胸に当てている耳をより強く押し当てる。
その音に導かれるように、目を閉じた。
優しい音を聞いているうちに、また意識が薄らいでいく。
自ら手ばなしたはずの音に安堵する自分自身を持て余しながら。
end
甘えん坊なヴァルさん。