「なあ、最近気になることがるんだが……」


牽制(ミル×ガウ)


 隣で歩いている壮年の男性を見上げ、問いかける。
 話しかけられた彼は、前を見ていた視線を移して俺を見ると、視線だけで続きを話せと促す。

「ドラゴンを見る回数がかなり増えてきているんだが、何かあったのか?」
 ここ数週間、ドラゴンが飛んでいるのを遠距離に何度も見ている。
 此奴がいるのでドラゴンは日常的な存在かと思うが、実際ドラゴンなんてそう頻繁に会うものではない。
 今まで俺が旅をしていた間では、ドラゴンの住む土地は別としても、年に3〜4回見る程度だったのだが、それが週に数回見るようになれば、十分に異常だろう。
 なので俺は、ドラゴンの間で何かトラブルでもあったのかと思ったのだが。

「…ああ、それはあれだな」
 そんなトラブルの中こいつが此処にいてもいいんだろうか、と心配する俺をよそに横を歩いているミルガズィアは飄々としたもので。

「私の気配がするから確認しに来ているだけだろう」
「は…?いや、だからあんたがいない時にも…」「お前から私の気配がするからだろう」

「?」
 意味が分からない俺に、ミルガズィアが若干妖しい雰囲気を伴いながら腰に手を回してくる。
 いつもなら人目のあるこんな街中で手を出されたら叩き落とす所だが、今は頭を使うので一杯でそちらは放置する。

 俺からこいつの気配がするって何だ?体臭でも移ってるのか?でもそれにしては風呂に入った後や翌日とかその後もドラゴンが現れていたし。寧ろ、ミルガズィアと関係した直後にはドラゴンを見たことは無い。

「なんで俺からあんたの気配がするんだ?」
 再び尋ねる俺。
 ぺしっ。
 ついでにあらぬ所にまで伸びていた手を叩く。


「お前にはたっぷりマーキングしてあるからな。私がいなくても気配がするのだろう」

 想像は出来たが、つい確認をしてしまった。
「・・・…まーきんぐ、って?」

「?お前にも分かりやすいように話したつもりだったが…。
 お前の中にいつもたっぷり出し…」
「こんな所で言うなぁ〜〜っ!!」
 相手の言葉を遮り、つい怒鳴ってしまう。

 周囲の通行人の視線が痛い。

 恐らく、会話の内容では無く、自分の大声が原因であろうとこは分かっているが。
 隣のミルガズィアを恨めしく睨みつける。
 周囲の通行人は己の歩みを再開して去っていき、俺は道の端にミルガズィアを引っ張っていく。

「…?お前が尋ねて来たからだろう」
「そうだけど!!
 なに、マーキングって!!
 てか、ドラゴンには俺たちが夫婦に見えてるってことか!?」
 面と向かえば、相手が憮然としているのが目に入るが、そんな事構っている余裕はない。
 今までの関係も考え物だと思うが、さすがに夫婦となると色々話が違ってくる。


「夫婦、かどうかは分からないが、少なくとも私のお気に入りとは認識されているだろうな」
 ちょっと、お気に入り、という言葉を言うミルガズィアにキュンとときめいてしまったり、しまったり……。
 俺がグダグダと考えている間に、相手は話を進める。
「興味本位で手を出してくるやつを、牽制しておかないといけないからな。私の本気のお気に入りとなれば、他のドラゴンは手を出せないだろう」
 我らは己が気になった事はすぐ手を出すからな、という言葉は俺に手を出してきたこいつを見ていれば非常に納得のできるもので。

 ということは、他のドラゴンに(性的に)襲われる可能性とか、面白い存在として見世物になる可能性があるってことか!!
 そんなの冗談じゃないぞ。


 もう俺にはときめいている余裕は無かった。

「・・・…しばらく俺に近づくな」
 その言葉と共に、俺は身を翻して通りに戻る。

 身体の関係を絶ったところで、今更問題解決にはならないと思うが、そうでもしないと俺の気持ちが納まらなかった。
 どうせ、すぐに破られるのは分かっているが。
 俺の知らないところで俺に関することが進行しているのは気持ちのいいことでは無いし、この鈍感なドラゴンにははっきり伝えないと伝わらないことも俺は学習していた。
 これだけ不快感を示せば、何かしら悟るところもあるだろう。


 いや、無理だな……。

 こいつにはきっと通じていない。
 そう思って振り返ればこのにいるのは、なかなかお目にかかれない間抜けな面をしたミルガズィアで。

 呆然としているミルガズィアと、宙に伸ばされたまま固まっている手を見て、ついその手を取ってしまう自分に苦笑するしかなかった。

 
end



 ミルガズィアさんにも可愛いところがあるんですよ、というお話。
 きっとドラゴンって好奇心旺盛だと思うんですよね。で、自分より格上の長の相手にちょっかい出すような奴もいるんじゃないかと思いこんな話を。
 ミルガズィアさんには甘いガウリイです(笑)

ブログにて 2014年3月24日掲載

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