声の一つ、指の一本さえも自由にならないこの状況が、焦りを煽る。
閉ざされた視界、何も捉えない聴覚が、混乱を増長する。
ただ自分がここに在るということだけを感じながら。
shelter 4
水面に空気の泡がぽっかりと浮かび上がるように、ガウリイの意識が覚醒した。
覚醒しても、ガウリイの前に広がるのは、闇と無音の空間であった。
五感の内、唯一感覚を感じることが出来るのは触覚のみ。
それは今までと同じ、ガウリイを拘束しているもので。
ふと、ガウリイの脳裏に顔が浮かぶ。
その顔が誰であるか判別をする前に、全てを圧倒する声がガウリイの内に響く。
『思い出さなくていい』
その声はガウリイの体を突き抜けるように響き、その体を震わせた。
そして声が体を突き抜けて行った後、体の違和感にガウリイは眉を顰める。
唯一残されている触覚に違和感を覚えたのだ。
ガウリイが意識を取り戻した時、烈光の剣も戦闘時に消耗した力の大部分を復元させていた。
フィブリゾの力が、思いのほか強くガウリイの意識を沈めたため、その意識を回復させるのに案外手間が掛かったが、それが烈光の剣自身の力を回復する時間にもなった。
まったく、こいつを廃人にするつもりか……
フィブリゾに対して軽く毒づく。
しかしその感情もすぐに中断されることになる。
ガウリイが記憶までも取り戻そうとし始めたのだ。
まだ十分な意識の調整が出来ていない状態で彼に記憶を取り戻されては困る。
意識の操作の際に影響が出てしまう。
なので、彼の意識を圧倒するために早速行動を開始する。
「思い出さなくていい」
この一言が開始の合図。
ガウリイの全身を布で包むように拘束していた闇を、僅かに緩める。
その代り、今度は厚みをもった闇でガウリイの体の隅々を真綿のように包み込む。
それはまるで繭に包まれているようで。
ガウリイは微かに動かせるようになった手足に気づきはしたものの、とるべき行動が見出せずただ力なく闇に体を預けた。
しかし直後、ガウリイは体を強張らせる。
今までに経験したことの無い、不快なのか何なのか判別もつかない感覚が全身を襲った。
烈光の剣が作り出した闇は、水のようにガウリイの皮膚に纏わりつき、じわじわとその内部へと侵入していっていた。
ガウリイの白い皮膚の下に、浸透していく闇がうっすらと浮かび上がる。
「うっ…、アッ……」
異様な感覚にガウリイの額には汗が浮かび、逃れるかのように体を折り曲げようとする。
しかしすでに全身に纏わりついている闇はその程度の抵抗で離れるはずもなく、体内への侵略を着実に進めていく。
『怖がることは無い、ただ私の一部のお前の中に刻むだけだ』
掛けられた言葉は耳に届きはしても、全身を駆け巡る感覚に苦悶する意識にまでは届かない。
届いたとして、その言葉を受け入れられる状態では無いのだが。
着実に自分の内部へと、中心へと進む闇にガウリイは為す術も無く体を戦慄かせるのみ。
不快ではない。不快ではないのだが、違和感に苛まれる。
なので自分を包む闇の一部が分離したことには気づかなかった。
それが人型となり、自分の前に立っても。
「…ガウリイ」
今までと同じ、しかし響きの違う声が掛けられ、それが自分の名前を呼んでいると気づくのに一瞬の時間を要した。
声のするほうに視線を移し、相手の姿が滲んで見えて初めて、自分自身が涙を浮かべていることに気づく。
はっきりとは見えない姿を見ようと目に力を込めると、涙がひとしずく流れていった。
随分体の奥深くまで進んだ闇に、不意に胸を掻き毟りたい衝動に駆られ、その衝動のままに腕を動かす。
とは言え、闇に包まれた状態では、その動きはひどく緩慢なものであったが。
その腕がもう少しで胸へ届くという時、不意にその動きが止まる。
否、動きが止められる。
目の前にいる者の手によって。
「……、大丈夫だ」
ガウリイの腕を掴んだ手はそのままに、ガウリイの横顔に顔を近づけ、零れた涙を舌で舐め取った。
そのまま顔を横に移動させ、今度は荒く息をしている唇にその唇を重ねた。
ガウリイが目を見開く。
唇を重ねられ、口内に舌が進入してきて、その感覚は今自分の皮膚から体内へと侵入してきたものと同じ感覚であったから。
「…んぅ……」
ただ感覚は同じであっても、それは他の部分より強烈に脳内まで侵略していく。
強い刺激に弓形にガウリイの背が反る。
動悸が激しくなり、酸欠のような状態に思考が途切れがちになる。。
口内を蹂躙され、そのたびに新たな刺激に身を振るわせる。
抵抗などと言う言葉は思い浮かばず、ただただ与えられる刺激に従順に従うしかなかった。
それはガウリイには永遠に続くかと思われたが、唐突に終わりを迎える。
体内に侵入している物等が中心部分へと到達したのだ。
「……!!」
その瞬間、体を衝撃が走り抜けた。
目の前が一瞬真っ白に染まり、直後暗闇に突き落とされる。
ガウリイが感じていたのはそこまでだった。
意識が闇に落ちる。
腕の中のガウリイは完全に脱力し、意識を失っていた。
その胸の内に刻まれたであろう刻印に、烈光の剣は満足げな笑みを浮かべた。
そしてその腕から闇がガウリイの体を受け取り、包み込んだ。
やっと、CPらしい話になりました……。
いや〜、いつになったらCP話になるのか自分でも不安だったので。
一応ここら辺が今後への布石ってことで。
ssへ