エンドライフ その後


「end life」続編



 ガウリイが自分の所に現れてから数か月、幾度となく繰り返してきた口付けだが、今回はヴァルガーヴの意気込みは違った。
 いつもは唇を触れ合わせるだけで終わる口付けを、今回は相手の口内へと舌を割り込ませる。

 随分前から、ヴァルガーヴにはガウリイが自分を拒むつもりはないことが分かっていた。
 それでも、拒否されたらどうしようとか、愛想を尽かされて出て行ったらどうしようとか、いろいろと躊躇って結局行動に移せないまま、ただ曖昧な関係を続けてきた。

 好きと好きじゃない。
 嫌いと嫌いじゃない。

 それは確かに分ける基準ではあるけれども、恋愛感情を伴うものにとっては、ひどく曖昧な選択肢でしかない。

 愛している。
 愛していない。

 その二つで分類しないことにはこの感情に決着はつかない。
 恋愛についてはこの二択しかないはずなのに、曖昧な二択に縋り付いてしまう。

 フィリアはヴァルガーヴにキスをしてくれた。
 家族として親愛の情のキス。
 頬に、額に、唇に。

 それは与えられるキスで、与えられる親愛の情で。
 もちろん、一時期煩わしく思ったそれだが、いまではそれは嬉しく思う。
 でも、恥ずかしいのも事実なので、拒む仕草は取るのだが、幼い時と変わらずキスは降ってくる。


 ただ、これをガウリイに当てはめる訳にはいかない。
 彼と築きたいのは、全く違う関係だから。
 そして、ガウリイは微妙な関係だから。

 そして。
 彼も。
 そう俺が思っていることを知っているはずなのだ。

 その状態でキスを受ける、という事は思いに応えてくれている、と思う。
 思いたい。
 区別はついていると思いたい。
 親愛と、恋愛と。



『んっ……、やっ……』

 声と共に、胸を押される。
 思わず口を離すヴァルガーヴ。

 舌先に残る感覚に、彼の存在を感じ。

 そして、後悔。
 

 俺は彼の庇護欲と、恋愛感情を見分けられていなかったのか、と。



『俺じゃお前に釣り合わないよ。
 初恋は淡いうちに終わらせておくのがいいんだ』

 そう言うガウリイの顔はとても真剣で、でもその表情は今の状況においてはどちらともとれて、問い返さずにはいられなかった。
「それは、俺がガウリイに惚れても脈なしってことか。それとも、俺が別の奴に心変わりするだろうってことか」

 それに返されたのは、曖昧な微笑み。

 ああ、彼にとって俺はそれだけの存在でしかないのかと思う。
 曖昧に言葉を濁し、煙に巻いてしまえばいいだけの存在。
 きっと、そこら辺の野良猫に愛情を餌を与えるように。

 同情で俺に『愛』のようなものを与えていたのかと。

 ぐるぐるとまわる思考の中、ガウリイの声が沁みてくる。

「俺さ」

「本当はかなり爺ちゃんだぜ。お前の目にどう映っているか分かんないけど」

「唇にキスなんて、ほんと数十年ぶりで、どうしていいか分かんないぜ」

「しかも、・・・…こんなの、いつぶりか思い出せないくらいで……」

 思わず目を剥けば、そこにいるのは相変わらずのガウリイの姿で、でもその姿に重なるように柔和そうな老人の姿も見える。
 実際にいそうでなかなかいない、可愛いおじいちゃん、といったところか。
 己の勝手な想像だか、きっと「ほっ、ほっ、ほっ」という笑いが似合うだろう。
 ガウリイの言う所の、かなり爺ちゃん、というのがその姿なのだろう。

 そしておそらく、死ぬ前の彼の姿。

 その姿を見てもなお、この胸の内になお宿る炎は消せなくて。
 その姿にも消せない思いに己は戸惑うしか無くて。
 ただ素直に言葉を紡ぐ。

「俺はおじいちゃんなあんたも好きだよ」
 返ってきたのはきたのは晴れやかな笑みで、それと同時に頭をクシャクシャと撫でられる。

「・・・・・・子ども扱いするなよ」

 それでもその手を払い退けない俺は、多分この立場に甘えているのだろう。
 拒まれる事の無いこの関係に。

 そして、このご老体に無体な要求をしていいものかどうか思い悩むことになるのは、この晩の事だった。


end



 どれだけ『エンド ライフ』が好きなんだよ私、という気持ちですが……。多分ヴァルガウ話の中で一番好きです!!
 お題物とかもかなり好きなのですが、これはもう別格のように好きです。みんなそれぞれ幸せっぽいところが・・・…。

 実はもうちょっとこのネタでは書きたい部分もあったり。それはいずれ。



ブログにて2015年5月11日掲載

 ほのぼのに見えて、ちょっぴりシリアスな雰囲気です。


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