マイワイフ? +α(ヴァル×ガウ)

 いかにガウリイといえども、成人男性、どころか体重的には成体となった竜の重さでマウントポジションを取られ、抑え込まれてしまっては抵抗するのは難しい。
「いやいや、落ち着こうかヴァルガーヴ!!」
「俺は落ち着いているが?」
 不思議そうに言われて、ガウリイは此奴はダメだ、と絶望的な気持ちになるが、ここで諦めてしまっては自分の貞操の危機、そして己の人生の危機である。

 本能で悟ったのだ。
 ヴァルガーヴが本気だと。
 ヴァルガーヴに捕まれば二度と逃げられないと。

『怖え〜よ………』


 ガウリイが打開策を考えている間に周囲の状況は変化していて。
 目の前には割と美形な顔が迫っていた。

「目を閉じろよ」
「…えっ?」
「……キス、しにくいだろうが…」
 頬を染めながら呟くヴァルガーヴ。
 その時、鳥肌とは全身が一瞬で立つものだと、ガウリイは知った。
 そして、自分にも火事場の馬鹿力というものがあるという事も。



 ドンドンドンドンッ!!
「リナ、リナぁ〜っ」
 少しの間をおいて開いたドアからガウリイは部屋に飛び込んだ。
「ちょっ…」
 見じろぐリナの腕をがっしりと掴み、ガウリイは泣きつく。
 男としての沽券とか、意地とか、そんなものは現在発生している危機の前にはどうでもよくて。
「あいつが変なんだよ〜っ!!」

「つまり、薬を飲んだはずのヴァルガーヴがいまだにガウリイに付き纏っていて、前よりも押し切られそうになっていると?」
 うんうんと頷くガウリイ。騒ぎを聞きつけ部屋にはゼルとアメリアもいる。
 ちなみに、フィリアはすでに熟睡していたようで、起きてくる気配は無かった。

「まあ、薬が実は効いていなかった、と考えたいところだが…」
 そう希望的観測を述べるのはゼルガディスで、その予想はガウリイも期待している物であるのだが。
「でも薬は効いているんでしょうね。ヴァルガーヴ自身も薬の効果を認識しているようですから」
 客観的意見を述べるのはアメリア。そして、内心ガウリイもそうであることを認識している。
 だからこそ問題なのだが。
 そこで口を開いたのがリナだった。

「で、ガウリイはどうしたいの?」

 私はガウリイのしたい方に手を貸すわよ、と。
「ヴァルガーヴを倒すとか、もっと強力な抑制薬を作るとか、まあ、いろいろあるでしょ」
 さらっと物騒なことを混ぜ込むリナ。

 自分を好きでいるのをやめて欲しい、とか、求愛の対象を自分以外にして欲しい、というのは…、傲慢な気がする。
「いっそのこと、ヴァルガーヴを消してしまうとか」
「ガウリイ、その理由であいつを消したらダメだろ……」



「こんなところに居たのか」
 不意に発せられた、場に不釣合いな明るい声。

 ぞわり、とガウリイに鳥肌が立つ。

 そんなことお構いなしに伸ばされた腕は、硬直しているガウリイを包み込んだ。
 そして耳元に囁かれる。

「妻よ」


「ぎゃ〜〜っ!!」
 逃げ出したガウリイは、ドアにぶつかり、廊下の壁にぶつかりながら素晴らしいスピードで逃げて行った。
「ガウリイさん!?」
「ちょっ、旦那・・・…」
 ゼルが助け舟を出すよりも先に逃げ出したガウリイは、あっという間に視界から消えてしまう。
『ここから逃げたら俺たちがフォロー出来ないだろうが…』

「邪魔をした」
 自分のことで集まっているとは思わないヴァルガーヴは、その言葉を残してガウリイを追いかけようとするが、その腕を掴む者がいる。
「ちょっと待ちなさい…」
 気にせず移動しようとしたヴァルガーヴだったが、その頭にスパーンッ、と気持ちのいい音と共にスリッパがヒットした。
「って……!?」
「待て、って言ってんでしょうが!!」
 振り返ったヴァルガーヴの目に入ったのは、口は笑っているものの目は座っているリナと、その横で微笑みながらも拳を握っているアメリアと、さらにその横で苦笑しているゼルガディスだった。


「…思わず逃げちゃったけど……」
 このまま何もなかった顔をして明日の朝を迎えられればいいのだが、おそらく相手はその前に仕掛けてくる。
 宿を変えるか。
 人より早く起きられる自信はあるから、みんなが起きてくるころにこの宿に戻っていれば問題は無いだろう。
 今からでも探せば入れる宿はあるだろう。

 だが、変えた宿で襲われたら多分逃げ切れないぞ俺〜〜っ!!

 いやそれよりも、誰かの部屋に居候させてもらう方が確実かもしれない。襲ってきたら助けて貰えるだろうし、あいつも手が出しにくいだろう。
 でも、あいつ所構わずだったから…、他に人がいても気にせず襲ってくるかもしれない。
 そんなことをされたら変な醜態を晒すことになるかもしれなくて……。

 それは嫌だぁ〜〜っ!!

 ぐるぐると廻る思考にガウリイがうずくまると、その肩に手を置くものがいる。

「俺が悪かった」
 その声にビクッ、と肩を跳ねさせたガウリイだったが、その言葉に顔を上げた。
 そこにいたは神妙な顔をしたヴァルガーヴ。
「お前の気持ちも知らないで……」
「分かってくれたか!!」
 きっとリナたちが上手く説明してくれたんだ、やっぱり持つべきものはいい仲間だな、と感動するガウリイをよそに、ヴァルガーヴは話を進めていく。

「お前がそんなに俺のことを想ってくれているなんて!!」

「……ぇ?」

「まだ夫婦の契りも交わしていないのに、俺の将来を心配してくれていたなんて……」
「ナニソレ?」

「リナから聞いたぞ、お前が男だから俺との子供を成せない事を気に病んでいると。もっとふさわしい相手がいるのではないかと思い悩んでいると」
「・・・……えっと…………?」
「俺に子供の顔を見せるためには、自分が身を引かねばならない、と思っていると」

「私はそんな事言ってないでしょ!!」

 リナの放ったドロップキックは綺麗に決まりヴァルガーヴは呻き声と共に床に倒れ伏す。
 ガウリイが傍観者の心境で眺めている間に、目の前の状況は進行していく。
 ヴァルガーヴが起き上がる前に、その背中に少女が飛び降りあっという間に関節を決めた。
「えっ、ちょっ!?」
「ナイス、アメリアっ!!」

 相変わらず、うちの女性陣は最強だな、と思う二人だった。


「私が言ったのは、ガウリイは男だから子供は出来ないでしょ、と、まっとうな相手を見つけなさい、でしょ!!」
「それは・・・…」
「黙りなさい」
「・・・…はい…」
 なんて頼もしい女性陣だ、と思う二人だった。
 ちなみに、ヴァルガーヴはもちろんだが、なぜかガウリイとゼルガディスも正座している。
「だいたい、ガウリイさんも悪いんですよ」
 急に矛先が翻される。
「嫌なら嫌ってはっきり言わないから」

「嫌、というか………」
 小さな、ほんとうに小さな声で呟く。
「懐いてくれた、みたいなところは嬉しいし」

「「「………あ、そう・・・………」」」

 そして、自分に都合がいいように考える人物がここに。
「俺が一緒にいるのが嬉しかったのか………」

「ガウリイ、こいつのことをどう思っているの!?」
 もうここは担当直入に本人に告げてしまった方がいいと思ったリナは、嬉しそうに瞳を輝かせているヴァルガーヴを指さす。

「・・・…手のかかるバカな弟」


『『『そうきたか……』』』

「ガウリイ、無駄に庇護欲広げない方がいいわよ」
 そう呟く言葉は、肝心のガウリイとあと1名には聞こえていなくて。

「この機会にこいつが俺たちに襲いかかて来なくなって、ついでにもうちょっといい関係になれたらいいなぁ、って思っているだけで」
 そう言ったのは、目を逸らしているガウリイで。

「弟なら、何があっても縁が切れない、ということか・・・…」
 無茶な解釈をしている約一名がいたり。


「とりあえず、今日は帰りなさい!!」

 結局、何も解決していない状況で。


 今後に夢を見る者と、これで逃れられると安堵する者と、結局何も変わって無いんじゃないかと冷静に分析する数名と。
 終局された一面に今更口を挟めるはずもなく、時はただ過ぎていくのだった。

end



久々の更新がこんなので申し訳ありません。

今更、かなり古い作品の続編をひっぱり出してきました。
これ、私的に結構お気に入りだったので。

このシリーズは、間違いなくガウリイは押し切られますね(苦笑)
本能でヴァルガーヴが本気だと悟ったわりには、逃げ切れていないという(笑)

ブログにて 2014年5月26日掲載

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