黒い太陽 〜廃屋〜
「魔族って、意外に脆いよな」
そんな言葉が、ふと口をついて出た。
思い付きなどではないが、考えと呼ぶには浅いもの。
「どういう意味でしょう?」
後ろを歩いていたゼロスが、俺の横に並ぶ。
顔をつき合わせて、しっかりと話したい内容でもないので、顔は先を行くリナたちに向けたまま会話を続ける。
「力とか、そういったものでは人間は敵わないだろうけどさ」
「まあ、あなた方は例外ですからねぇ」
事実なので、ゼロスもあっさりとそれは認める。でもきっと、これから俺が言うことは認めないだろう。
いや、それとも理解できない、だろうか。
しかし話し出しはしたものの、このあとに続けるべき妥当な言葉が見つからずに、いくらか逡巡する。ちょうどいい言葉が見つからなくて、苦し紛れに、自分で思っていることに近いと思った言葉で語ってみる。
「でも魔族って、親が駄目になっちまえば、子も駄目になるんだろう?」
この言葉で意味が通じたのかどうか、ゼロスの顔を横目で伺うが、ゼロスは俺の言葉の意味を考えているようで、俺は何か補足の説明になるようなことを、上手く言うことが出来るかどうか分からないが、言おうとして口を開いた。
「人間は親がなくても、生きていける。ですか?」
どうやら俺の言おうとしてことは通じていたようで、ゼロスはそう返してきた。
しかしこのことについて、否定も肯定もなく、俺は少し拍子抜けしてしまう。
先頭を歩くゼルがこちらのほうを振り返っている。ゼロスが手を振っているのが目の端に映る。
そして、当然のごとくゼルガディスはゼロスを睨んで、前のほうに視線を向けた。
もしかして、この話の内容を聞かせたくなくて、ゼルガディスに早くこちらへの興味を無くして欲しくてそうしたのだろうか、などとも思ったが、いつもどおりの笑いを浮かべた顔に、それは無いかと思い直す。
「親がいればそれで十分なんだな」
我ながら、投げやりというか、嫉妬が混じった声になったと思った。
「おや、焼き餅ですか。もちろん貴方の事も、貴方達のことも好きですよ」
きっと、俺の言おうとしていることの意味は伝わっていないのだろう。
もともと俺の言葉が足りないわけだし、別に伝えたいわけではないから、伝わらなくても何の問題もないが。
「興味の対象としてだろう?」
「まあ、娯楽は必要ですから」
いつものように応える声に、俺もいつものように軽く返事を返す。
たとえ俺の言おうとしていることが伝わったとして、きっとゼロスはいつものようにとぼけてかわしてしまうのだろう。
結局俺は、いつまでたっても答えを手に入れることは出来ない。今の俺の答えに一番近いのはリナだろうか、ゼロスだろうか。
それさえ見えない。
「親がいれば幸せで、親がいなくなれば存在できなくて。魔族は随分と……」
なんでだろう。
言うつもりのなかった言葉が、口の端から零れ落ちる。
全部零れ落ちるのか止めることは出来たけれども、きっとゼロスは俺の真意に気づいただろう。
それとも、免れただろうか。
湧き上ってきた不安に、俺は僅かに視線を下に向けた。
急にゼロスが俺の左手を取り、手首を軽く撫でた。
鳥肌が立つ。
考える暇もなく、反射的に激しく手を振り払った。
ゼロスは気にした風もなく、いつもどおりの笑い顔を俺に向けた。
「どういったところで、魔族と人間はまったく違うものですからねぇ。人間は更にそれぞれですから」
返ってきたのは、俺の意図が伝わったのかどうか曖昧な言葉。
いや、きっと伝わらなかったのだろうと思う。そしてそのことに少し安堵する。
「大切なものなんて、手を伸ばせばいくらでも見つけることが出来るでしょう?」
その言葉に、俺は一瞬怒りにも似た感情が起こる。実際には怒りなのか、絶望なのかはっきりしないけれども、とにかくそういった感情。
それでも、少し深く息を吸ってそれを落ち着ける。
そうすれば、森の澄んだ空気とか、零れ落ちてくる光とか、楽しげなリナ達とか、そういったものを見る目線へと切り替えることが出来た。
「それでも……」
心の中での葛藤が勝手に口を動かす。
リナが大きく手を振っている。早く来いということらしい。
それに答えてゼロスをあとに残し俺は走り出す。
それでも、親と一緒に、大切なものが消えるのと一緒に己も消えてしまえるなんて、なんて羨ましいことだろう。
跡に取り残されずにすむなんて。
end
一応補足なんですけど、あんまりそれらしくないですねぇ。
結局、2人はすれ違ってしまってますし。ガウリイさんは閉じこもりすぎで、ゼロスさんは先走りすぎている感じ。