フェルト
ベッドの上に座りこんで後ろからベッドに腰掛けている彼を抱きしめていると、腕の中の彼があくびを噛み殺したことに気づいた。
時間は気にしていなかったが、そういえば彼が部屋に入って来てからずっとだから、随分長いことこの姿勢をしている。
それは眠くもなるだろう。
夜も随分更けてきた。
「どうぞ、お眠りください」
「………」
ちらり、と視線を僕に移したガウリイさんは、何も言わずに視線を戻した。
ちょっと機嫌の悪そうなその態度に、僕はちょっと苦笑を漏らす。それに気づいているガウリイさんはより機嫌を悪くする。
「分かってますよ。僕がそばに居たら眠れないんでしょう?」
「……分かってるなら…っ」
彼が言葉を続ける前に、僕がその唇をふさぐ。
ただ言葉を封じるために行った口付けは、彼が素直に受け入れてくれたので思いのほか長いものとなった。
「…っはぁ……」
彼が漏らしたのは息継ぎのための呼吸か、溜め息か。
その流れのままに彼をベッドに沈める。
「…たまには僕に抱かれたまま眠ってもいいじゃないですか。ガウリイさんが眠りに落ちていくところを見てみたいんですよ」
嘘偽りなく、ただそれだけのことなのだけれども、僕には、ガウリイさんにはそれが難しい。
魔族である僕は気配をある程度消すことは出来るけれども、ガウリイさんのそばに寄れば彼には認識されてしまう。
そしてガウリイさんは魔族の気配を察すれば、それを無視して眠りに落ちる、ということは出来ない。
だから僕は、彼が安心して眠りに落ちるところ、というのを見ることは出来ない。
もちろん、彼にそれを訴えたところで、彼自身ではどうすることも出来ないのだが。
暫く僕の顔を凝視していたガウリイさんだったが、その表情が一変、破顔一笑した。
「……えっ?」
予想外の反応に、自分でも間抜けだと分かる声が漏れた。
そして予想外の自体はまだ続いた。
僕のほうに手を伸ばしたガウリイさんが、そのまま腕を回し僕に抱きついてきた。
いつものような、ほどほどに力の入れられたありきたりな抱きつき方ではなく、押し潰そうとしているのかと疑いたくなるほど思いっきり力を込めて抱きついてきた。
別に痛くはないのでいいんですが。
何ですかこの状況?
「ゼロス、かわいいなぁ〜」
「………!?ええっ、なんでそうなるんですか」
急に上機嫌になったガウリイさんは、僕を抱きしめたままベッドをゴロゴロとしている。
普段とは違う彼に、僕はただ為すがまま。
そしてピタリと動きを止めたガウリイさんは、再び僕の顔を見るとまた笑顔を浮かべる。
「だって、俺がゼロスの前で寝ないからいじけてたんだろ。それを想像したらかわいくて…」
言いながらもニマニマとしているガウリイさん。
「ち、違いますって。純粋に好奇心で…」
そう言ってもガウリイさんには通じないようで、「同じ様なものだろ」と言われてしまった。
そしてこの状況がお気に召したらしいガウリイさんは、僕を抱きしめまま顔を摺り寄せてみたり、顔にキスを落としたり、と開放してくれる気はないらしい。
ガウリイさんが上機嫌であるので、僕としては不本意ながらもされるままになる。
やがて、自分を締め付ける腕の力の強さが弱まったことに気づいて顔を上げれば、軽い瞬きを何度も繰り返している。
「…ガウリイさん……」
「…ん」
控えめに掛けた声に、ガウリイさんはただ返事なのかどうなのかはっきりとしない声を発するのみ。
そして規則正しい寝息が聞こえ始めるころには、僕が破顔していた。
おわり
ゼロガウにしては珍しいほのぼのです。
いじけるゼロス、というのがガウリイのツボにはまったようです。
後ろからガウリイを抱きしめるゼロスと、ゼロスを抱きしめたままベッドをゴロゴロするガウリイを書きたくて作ったお話でした。
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