「……コワレロッ!」  朝。  薄いカーテンを開けそして窓を開ける。  顔を出したばかりの太陽が、眩いばかり の光を流し込んでくる。 「昨日は思いっきり雨が降ってたのに……  天気ってわからんもんだな」  そして、自然と視線が右斜めに向いた。  電線の上に雀が4匹止まっている。  チュンチュン鳴いてとても楽しそうだ。  親子だろうか。 それとも友達だろうか。  しかし、俺はそれを楽しむ気などない。  理由などない。 理由がわからない。  ただ、気付いた時は、頭の中で「ソレ」を 唱えていた。  そして、4匹の雀は電線から落ちた。  物が落ちるように落ちていった。  そして道路に落ち、痙攣をした後、全く 動かなくなった。 「……今日は、暑くなりそうだな……」  そう呟き、また、眠りについた。  眠りにつく前に、一つ考え事をした。  そういえば、最近は唱える事が多くなっ た気がする。  何故だろうか……  以前はこのような事は絶対無かったのだが。  何か、俺自信が変わってきてるのか……?  それとも、何かに体を蝕まれてるとか……  ……馬鹿らしい。 とっとと寝よう。  その日の午後。  家の近くの公園を散歩していた。  ……暑い。  今にも身体中から汗が噴き出しそうだ。  俺は、名も知らぬ大木の影に入る。  しかし状況は全く変わらなかった。  木に居たセミが大声で歌い出す。  ますます業況が悪化してしまった。  仕方ない、噴水のところまで行こう……  その途中の並木道。  前からサングラスをかけた男が歩いてきた。  そして、その男と肩がぶつかった。  いや、わざとぶつけた。 「どこ見て歩いてんだぁっ!?」  予想通り、男は因縁をつけてくる。  そして、俺は頭の中で唱える。 「コワレロ……!」  俺はその場から歩き始める。  うしろでは、何やら呻き声が聞こえる 気がするが関係無い。  さしずめ泡でも吐いているのだろうか。 「お、おいっ! 人が倒れてるぞ……!」  また別の声が聞こえてきた。  俺は、更に歩く。  後1時間もすれば大騒ぎになってるだろう。  ……それにしても暑い。  いっそ太陽まで壊しちまおうか。  いや、そうなると今度は逆に思いっき り寒くなるな。  寒さはさすがに壊せない…か。    それとも、俺以外の何かが変わってきてるのか。  しかし暑い。  余計な事を考えたためか、既に俺は汗 だくになっていた。  目の前に、水色の髪をした女が現れた。 「……ちゃん、お願…… …って」  何を言ってるのか分からない。 「お……ちゃん、……から、元に……」  何やら涙を流して、俺に「頼み」をしてるらしい。  ……見てていらついてきた。  お前も「コワレ……」  ……俺が唱えるより早く、その声が頭に響いてきた。  とても澄みきった、綺麗な声だった。 「お願い…… 長瀬ちゃん、元に戻って……」 「でも、戻ってこれそうもないみたいだね……」 「ごめんね…… ……コワレテっ!」 「どうだ瑠璃子、この男は元に戻りそうか?」 「あ、お兄ちゃん。 ……うん、大丈夫だよ」 「何故そう思う?」 「だって…… ちゃんと届いたから」 「しかし…… この男は『狂気』に完全に侵されてるな」 「瑠璃子、この男を治せるか?」 「……うん、大丈夫だよ」 「そっか…… じゃ……」  後は、任せたぞ……