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都城方言 のんべぇ物語 
 宮崎県都城(みやこんじょ)地方で毎年行われる六月灯(夏祭り)の打ち合わせが、あ

る部落の公民館であり、その席で信勝どんの親父(おやっ)さあが挨拶をした。信勝どん

と幼馴染みの一郎どんが昼下がりの午後にやってきた。

「めあげもんそ」

「こりゃ一郎どん、おじゃったもんせ」

「おおーこいは信勝どん、久さかさぶいじゃったな」

「一郎どん、おはんも打ち合わせん行ったとじゃろ」

「行ったこっは行ったどん、途中で用ができっせぇ帰ったとじゃが」

「そいで、おいどんげん親父(おやっ)さあは、どげなこっじゃたな」

「おまんさあげん、親父(おやっ)さあは、よか挨拶(えさっ)しっ、いっこ頭(びんた)

も、上げんじおっせぇ、まこち、げんねかごっ、あいもした」

「へぇーそんたまこっじゃろかい」

「とこいで親父(おやっ)さあは、おじゃいもさんか?」

「うんにゃ、おいもさんど」

「そげんこっじゃれば、まっがんしょ」

「そげん言わじ、遊んいっきゃんせ」

「ほんな、ちいっとばかい、遊ばせっもれもそ」
 
「おはんな、お茶よか焼酎(しょちゅ)ん方がよかじゃろかい」

「こげん、はよかい飲んでん、よかどかい」

「こりゃ酒ん好っどんが、なんば遠慮すいこっが、あろかい」

「うんにゃ遠慮じゃなかどん、なんか持っくれば、よかったち思っ」

「あっ、ちょっしもた。そげん言えば酒ん肴が何もなか。いけんすか」

「そいじゃれば、今朝もろっきた牛(べぶ)ん肉があっじ、取いけ帰っくっじ」

「なんも帰らんでんよかごたっどん。やっぱい焼酎(しょちゅ)ばっかいじゃ、いっもは

んか」

「まあーそいでんよかどん、そっかいそこじゃっで、わけんなかこっじゃ」

「そいじゃ湯でん沸けちょっじ、はよ行たっきゃんせ」

 一郎どんが出て行った後、信勝どんは庭の木陰に椅子などを持ち出して、炭火を熾した。

汗が噴き出すのでビールを飲んだ。しばらくして、一郎どんが戻ってきた。

「ついでじゃったかい、庭ん畑かい野菜(やせ)も採っきもした」

「そりゃ、ご苦労(おやっと)さあなこっで、ごわした。まあビールでん飲んたもんせ」

「ううん、こりゃ美味か。もう一杯もれもそ。おおっとっとー。信勝どん、こいをばあ、

はよ焼かんや」

「おっ、こいは都城(みやこんじょ)ん牛肉(べぶ肉)じゃなかか」

「まあー食べながら飲んもそ。うんにゃ、ビールはもうよか。焼酎(しょちゅ)ん方を注

っくいやん」

「一郎どんな、七対三(ななさん)じゃったけ」

「ん、やんややんやー信勝どん、そげん面倒(めんど)くせこっせじ、焼酎(しょちゅ)

もヤカンに、うっ込めば、よかっじゃが」

「じゃっどん、一升(いっしゅ)ビンのままじゃかい、どんくらい入れてんよかか判から

ん」

「まあー適当に、うっ込んじょきゃんせ。飲んみれば判かいかい」

「てげてげ混ぜたどん、湯かげんな、こんくらいで、どげんじゃろ」

「どら、ううんーもうちょこっ薄(うし)。もちっと焼酎(しょちゅ)を入れっみやん」

「ほいほい、こいでどげんなー」

「よし、こいで丁度よか。ほら肉が焼けたごたっど」

「ううん、こいは美味か。やっばい都城牛(みやこんじょんべぶ)だけんこっはあいな」

「うんうん、まこち柔しか。ほんのこて、なんとも言えん味じゃ」

「オクラやピーマンも焼けすぎんなっど。一郎どん、はよ食わんや。おっ、親父(おやっ)

さあが戻っきやったど」

「よか匂いが、すいがちぃ思ちょけば、一郎どんも来ちょっせ、こげんはよかい飲ん方ど

ん、おっぱじめちょいが」

「あいや、こいは親父(おやっ)さあ。そげん言わじ、こき座いやん。おやっさあも一緒

き飲んもそ。信勝どん、はよコップをやらんや」

「ほい、おやっさあ。おやっさあは、どっちがよかな」

「そいじゃれば、まずビールじゃ。・・・・ああ美味か」

「ほら、もう一杯いっきゃん」

「おうおう、一郎どん。じゃっどん、こんつ飲んとったら、もうビールはよかじ、焼酎ん

方を注くれんか」

「解いもした。肉や野菜(やせ)も焼けちょっじ、親父(おやっ)さあも、どんどん食べ

っくいやんな」

「ん、こいは都城牛(みやこんじょんべぶ)じゃなかか」

「おやっさあ、よう解いもしたな」

「そりゃ一味違うかい、解らん方が、どげんかしちょっと言うもんじゃ」

「一郎どん、トウモロコシ(ときっのよめじょ)も焼けちょっど。ほら、おやっさあも食

べんな」

「おおっ、こらよか匂いじゃ。ううん、美味か。とこいで、おやっさあは、どこん行たち

ゃったとな」

「ほら、おまいどんが子どんのとっ、ゴビナ(カワニナ)を採ったい、フナやドジョキン

ぬ捕ったいしおったどが、あん小川んとこじゃ。あひこん橋ん下で涼んきたとじゃが」

「ああ、あひこな。あひこは涼しかかいな。そげん言えば、あひこで信勝どんと、ふたい

しっせぇ、よお遊んだもんじゃったな」

「ほんのこっじゃったな。いっかは足(あす)、ヒルんあっちこっち噛まれちょっ、おい

が取っやったこっが、あったどが。憶えちょいや」

「うんうん、そげなこっも、あいもしたな。よお憶えちょっど」

「ん、あんとかクロヘッの、ふっとかわろを、捕めっ帰っきっ、小屋ん中(なけ)ほたい

投げちょったら、祖母(おばあ)さあが、ひったまげっせぇ腰(こす)ぬかっしゃったと

じゃった」

「じゃったじゃった。後かい二人(ふたい)とも呼ばれっ、がらるいも、がられたがな」

「まっこて、あん頃は二人(ふたい)とも、きかんたろも、きかんたろじゃったかいな」

「あはっ、こりゃーおやっさあには、まいりもしたなー」

「おやっさあ、まっ一杯いっきゃんせ。いっずいでん、そげんこっ憶えられちょいもんじ

ゃっで、よか大人(おせ)んなった今でん、おやっさあには頭が上がいもさん」

「わっはっはー。おいかい見れば、まだまだ子どんじゃ。いっかは畑ん中ばぁ、走い回っ

くれっ、野菜(やせ)ばぁ、ちんがらっ、しっくれたがよ。憶えちょいか」

「そげなこっが、あったけ。信勝どんな、憶えちょいや」

「うんにゃ憶えちょらん」

「こらこら、都合ん悪かこっは、いっき、け忘れっ、いい気なもんじゃわい」

「うわあーあん時(とっ)のこっ、また(がらるっ)たろかい。そげん言えば、そげなこ

っも、あいもしたけ。あはっ、おやっさあ、まっ飲んくいやん。こいで(こらえっ)くれ

んな」

「うむ、こん一郎どんのごっ、正直んあれば、よかたっどん。信勝ときたら、ちょこっ強

情なとこいがあっじ、こまったもんじゃ」

「えっへっへー、おいは、だり似たじゃろかい。やっぱいカメん子はカメじゃっじな」

「あっはっはー、こいは一本とられたわい。ん、ちょこっ酔ったごたい」

「あっ、じゃったじゃった。ついうっかいすっとこじゃった。おやっさあ、今年ん六月灯

は、どげな趣があっとな」

「そこあたいの、お方ん衆が踊る踊いごちぃなったとじゃ。おいどま、そんっ見ながい飲

ん方んなっどん、おまいどんのごっ、若けやた、弁当を作っ、運んもろこちなっちょい。

歌も出っじゃろかい、舞台の準備もしちょくれちゅうこっじゃったど」

「解いもした。そりゃ気ばらんと、いっもはんな」

「まあーご苦労様(おやっとさあ)なこっじゃろどん、はめつけっくいやんせ」

 おやっさあは、かなり酔ったようである。ひょいと立ち上がって、家の方によたよたと

歩いていくと、中に姿を消した。

「一郎どん、どんどん飲んくいやん。じゃねと、ヤカンの中が、ちぃっとん減らんがお

っ」

「おおっ、信勝どん、こいかい腰(こす)据えっ飲んど」

「ん、おっ、敬介どんじゃ」

「こりゃ、もしたんこっじゃ、ふたいしっせぇ飲ん方な」

「おお敬介どん、おはんも飲んみゃんせ。おやっ、なぬ持っきたと」

「こいか。こんたイワシじゃ。志布志ん方で釣っきた」

「そげん言えば、港ん中んイワシん子が、湧いちょいげなが」

「ん、一郎どん、そがらし湧いちょったど。じゃっで(おごじょ)ん衆も、どんどん釣い

よったぞ」

「おっ、こいは、ちぃっとばっかい(こめ)どん、鮮度がよかっ」

「信勝どん、腸(わた)は取らんでんよかじぃ、そんまま焼っきゃんせ」

「おおー、こいはよか肴じゃ」

「敬介どん、牛(べぶ)ん肉もまだあっじぃ、どんどん食べっ飲まんや。ほらイワシも焼

けたごたっど」

「わあーお、こりゃー旨か」

「うんうん、一郎どん、ほんのこてじゃな」

「とこいで、志布志ちぃ言えば、いつじゃったか、グチ釣いけいたこっがあったな」

「あーあー敬介どん、あんとか安楽川ん河口じゃなかったけ」

「信勝どん、じゃったじゃった。浜かいの夜釣りじゃったな」

「まだ夕方の明りうっじゃったもんで、いっこ釣れじ、一郎どんがビール(こけ)いたっ

きたがよ」

「そん小間(こめ)おいと敬介どんが流されっきちょった雑木を拾っきっ、焚き火をした

がな」

「つごんよかこち、松原があい浜じゃったかいな」

「イワムシの(ふっとかわろを)鈎かけっ、仕掛けを投げ込んせぇ、竹に竿を立て掛けっ

置いたまんましっ」

「おいが(こっきた)ビールを三人しっせぇ、飲ん方を(おっぱじめたと)じゃったな」

「そんうち、ふふっ、一郎どんと信勝どんが歌ばあ唱い出したしな」

「敬介どん、あん日は確か闇夜じゃったがな」

「信勝どん、うん、じゃったど」

「じゃったで、竿が見えじ。アタイも判らんかったな」

「三人とも仕掛けを投げ込んせぇ、竿は立てたもんの、ほっちらけちょったがな」

「やけんなっ、ビールをがぶ飲んしっ、あっはっはっはー」

「周り衆は(せからしこっ)じゃったこっじゃろ」

「地元ん人たっも(どっさい)釣いけきちょったかいな」

「ほっどん、だいぶ離れちょったじぃ、聞こえんかったじゃろだい」

「ほしたら、突然信勝どんの竿がバタッと倒れっ」

「こら(ふっとかっが)掛かったごたっど。と、おいが立っちゃがったら、ふたいとも本

気んせじ、大声でわろっ」

「海草でん引っ掛かったじゃろちぃ思ったとじゃ。なっ一郎どん」

「うん敬介どん、おいも、そげん思ったとじゃったどん、信勝どんが、どんどん引張っち

ぃ大騒動(うそど)をしっ」

「灯いを点けたら、まこち竿が弓なりんなっちょっ」

「あんまい引っ張いもんじゃっで、リールが(うっ壊れっ)糸を巻っがならじ」

「信勝どんが竿をしゃくり立っい度、一郎どんが糸を引っぱいあげっやったな」

「あんまい引きが強かもんじゃかい、うっかいすっと糸で手を切っとこじゃった」

「そげんしちょい小間(こめ)灯いが波打ち際せぇ走っいたどが、なあー敬介どん」

「地元ん人ん釣い糸を巻き込んじょったかいな」

「三人とも走っせぇ、行たっみたら、ふっとかエイが波打ち際で、ゆらゆらしちょったが

な。敬介どん、あがいずい、どんくらい経っちょったどかい」

「三十分ばっかいじゃったどかい」

「エイの尻尾は毒があっちゅうこっで、地元ん人が切い落とせっ、くいやったがな」

「ほれほれ、一郎どんも敬介どんも、どんどん飲まんや」

「ん、飲んじょっど。敬介どんなどげんじゃ」

「おお、おいも飲んじょっど」

「信勝どん、あんエイはどんくらいあったどかい」

「八、九キロじゃったどかい」

「そん後も明け方ずい粘ったどん、何も釣れんかったがな」

「敬介どん、あん夜はグチはおらんかったとじゃろ」

「そいじゃったで、明け方んうち、帰っきたがな。一郎どん」

「うん、じゃったな。帰っきたら、信勝どんが(いっき)エイを(こしたえっ)」

「敬介どんと一郎どんが、そんち生姜をぶっ込ん、砂糖醤油で煮付けたとじゃったな」

「そこずいしたら、信勝どんがここで寝れっちゅうもんじゃかい。あっはっはー」

「一郎どん、じゃったじゃった。あはっ、三人しっ雑魚寝したがな」

「三人とも覚えじ寝ちょったもんじゃかい、おいげんおやっさあが叩き起こせっ」

「敬介どん、起きっみたら、もう午後ん三時んなっちょったがな」

「信勝どんが腹が減ったかい、エイで一杯やろかちゅうこっで、また飲んでけっ」

「あんエイも案外うまかったしな」

「おやっさあも喜んせぇ食べっくれっ。一郎どん、信勝どん、あいは良かったな」

「うんうん、あいは美味しかったな」

「じゃったじゃった、まこちじゃったな。信勝どん、おいは酔っぱらったごたい」

「一郎どん、帰っとなぁ。はんとけんごっ気をつけっ帰いやんせ」

「敬介どん、一郎どんなあげんよろよろしちょいが、だいじょじゃろかい」

「信勝どん、心配なか。見てみやん、あげんしちょってん、もう帰っしもたがよ」

「敬介どん、飲まんや。ほらほらっ今度はおはんと差しじゃ」

「おう、大いにやいもそ。ん、あいはいつだったけ。ほら台風がくっとき釣け行たとは」

「もう二年ばっかい経っちょっど」

「まだ沖縄を通過したばっかいじゃっで、だいじょじゃろと」

「こっちはまだ風も吹かじ、晴れちょったしな」

「志布志ん港かいボートん乗っせぇ出っみたら、うねりが高いのなんの」

「おいは船尾ん方で舵をとっちょったかい良かったどん、おはんな前ん方じゃったしな」

「あん船外機は何馬力じゃったとな」

「二十馬力じゃっど。じゃっでスピードがあったどが」
 
「五、六メートルもあいうねりん向かって行っもんじゃっで、船首かい乗り上げっ」

「うねりが通り過ぎっと、船首が空中に放り出されっドバンと海面に落ちっせぇ」

「そんたび、おいが方は身体が浮き上がっ落ちるもんじゃかい、尻が痛くてたまらじ」

「あいは、うねりっちゅうより、大波ちぃゆうた方がよかったしな」

「おまけん、波長が短いもんじゃっでドッパン、ドッパン乗い上げせぇ落ちっ」

「じゃっどん、三十分ばっかいでポイントん到着しっ、敬介どんがイカリを投げ込んせぇ、

ロープを出せっくれっ」

「あげな大波じゃったで、ロープをどんどん出しちょかんと船が安定せんかいな」

「イカリを入れたもんじゃかい、船首はいつも大波ん方を向いちょったがな」

「あいで横波どん受けっみやん。ひとたまいもあったもんじゃなか」

「そいで釣り出したんじゃっどん、大波ん滑り登っては滑り下りるもんじゃっで、釣り糸

が縮んだい伸びたいしっ釣りにくいのなんの」

「ほっどん、魚は食いっ気がたっちょっせぇ、おいも信勝どんも、どっさい釣ったじゃな

かか」

「なんごち、あげん食いっ気がたっちょったとじゃろか」

「ううん、あはっ、あいは嵐に備えっ腹ごしたえばぁしちょったとじゃろ」

「あっはっはー冗談のごっ聞こゆっどん、そげんこっじゃろか」

「夢中んなっ釣っちょっせぇ、ふと顔を上げっみれば、上も横もどこもここも海面しか見

えじ。海ん底ん呑み込まれしもたごっあいもしたな」

「うんうん、大波ん底かい見たで、そげん感じがしたっじゃろだい」

「波頭ん乗い上ぐっと、遠くまでよく見えちょっとにな」

「一時間ほどでエサ切れしっ、さあー帰っどと敬介どんにロープを手繰っもろたな」

「底ん岩礁にイカリが食い込んじょ引き上げがならじ、どげんもこげんもならんかった」

「風も強まりつつあったし、あのままじゃ危険じゃったかいな」

「仕方なかちゅうこっで、ロープばぁナイフでひっ切る羽目んなったし」

「イカリはうっ捨てたどん、命にはかられんしな」

「信勝どん、あんイカリとロープは高かったとじゃろ」

「うん、まあーな。じゃっどん、あいで良かったとじゃが」

「帰っとっも船がバッタンバッタンすっとかちぃ思っちょれば、なんのこっもねじ」

「まるで波乗りんごっスイスイ進んせぇ不思議じゃったな」

「ほら信勝どん、飲まんや。あんたまこち不思議じゃった。なんごっであげなこちなった

とじゃろ」

「そげんこっは、もうどげんでんよかじゃなかか。ほらほら敬介どんも、どんどん飲まん

や。ん、あんやーこいは珍しかこっもあったもんじゃ。おいの妹女(いもっじょ)じゃ。

婿どんな、どげな具合じゃ」

「兄(あに)さあ、ご心配には及びもさんどん、まだ腰を痛せしっ通院中でございもす」

「おっ、こいはユリ子さあ、お婿さあはいけんかしたとな」

「あっ、これは敬介さあ、ご無礼しもした。実は交通事故に遭ったのでございもす」

「えっ、そいは大変なこっでごわしたな。して、どげんこっで事故ん遭ったとじゃろか」

「バイクに乗っていたのでございもすが、後ろからきた車に接触されたらしく」

「そいでどげんなったと」

「右後方でゴォーッちぃいう物凄い音と揺れがきっ、大地震が起こったんかと、当初は思

ったんじゃげな」

「信勝どん、じゃろじゃろ。そいで」

「接触されたまま二メートルほど走ったらしゅうございもす」

「そいは一大事じゃなかか。そいでそいで」

「敬介どん、そげん急かさじ、まあー飲んみゃんせ。バイクともども左側のガードレール

ん弾き飛ばされっせぇ、車は通り過ぎっ行ったとじゃげな」

「そいじゃガードレールん激突したっじゃろ」

「そん通いでございもす」

「そいでそん反動で婿どんの身体は道路ん中央ん放り出されたとじゃったな」

「なんでも路面に叩きつけられっ、身体がバウンドしたそうにございもす」

「そげんこっじゃれば頭を打ったとじゃなかな」

「はい、激しくぶっつけたちぃ言うとりもした」

「じゃっどん、ヘルメットを被っちょったかい頭ん方はどげんもなかったらしか」

「そうでごわしたか。そいは不幸中の幸いであいもしたな。そいで怪我ん方は」

「右肩の負傷と腰の打撲。後は手足のかすり傷で、こっちん方は大したこっではなかので

ございもすが」

「腰ん方はひねったか、どげんかしたとじゃなかかな」

「どうもそげんこっらしかでございもす」

「そりゃ、いかんかったでごわすな」

「とこいでユリ子、今日はなんの用じゃ」

「兄(あに)さあ、そいが敬介さあの前で恥ずかしかごっあいもすどん、お金を貸せっく

れはないもはんか」

「そいはよかどん、またこいはどげんしたこっじゃろか」

「仕事っもできじ、通院のタクシー代やら治療代を立て替えるもんじゃから」

「なんじゃそげんこっじゃったか」

「いずれ車の保険かいお金が下りるのでございもすが、それまでん間」

「そいで、なんぼ程いっとじゃ」

「こんくらいでございもす」

「よし、解った。今かい下ろせっくっじ敬介どんの酒ん相手をしちょっくれ」

「信勝どん、だいぶ飲んだごたっどん、大丈夫な」

「なんのこんくらいのこっで。どっこいしょ」

「兄(あに)さあ、気をつけっいたきゃんせな」

「敬介どん、おいが帰っくいずい、おらんといかんど。そいじゃあな」

「さあさあ敬介さあ、飲んくいやんせ」

「おっ、こいはあいがとごわす。ユリ子さあも一杯いっもそ」

「よか嫁女(おかた)が、こげんはよかい飲んでんよかもんじゃんそか」

「なんばあ遠慮すいこっがあろか。おいとん仲じゃなかな」

「そいじゃ少しだけ頂きもんそ」

「今となっちゃあ、どけんもならんどん、おいはユリ子さあが好きじゃったとじゃ。じゃ

っどん、いつの間にかおまんさあの婿どんに横取りされっしもちょった」

「まあ、なんばあ言い出しなさっとかち思ちょれば、そげんこっを」

「こめんけとっかい好きじゃったとは解っちょったはっじゃ」

「そりゃまあ、わたしも敬介さあが好きでございもしたけれど」

「そいじゃれば、待っちょっくれてんよかったもんを」

「いつ、もろけきっくいやいかと心待ちにしちょったとに。いっこ言い出しなさらじ」

「おいも若かったしな。誰かを立ててちぃ思ちょいこめ、手遅れんなっちょったが。どげ

んして待っちょっくれんかったとな」

「ひとこっも言ってくれんかったとじゃもん。言ってくれれば待っちょったのに」

「言わなくっても解ってくれておいもんと」

「薄々は解っちょってん、女心は微妙なのでございもす。敬介さあはそんな女心が解って

いなかったんだもん」

「じゃこたじゃったどん、そんちしてん、あげんさっさと嫁ぐこっもなかったとに」

「じゃってん、そげんこっ言われても、あげん大攻勢をかけられると、女心とは悲しいも

んで、つい心が傾いてしまったのでございもす」

「まあ、今さら言っても仕方なかこっじゃったな。お互いもう子供もおいこっじゃし。さ

あ、もう一杯。あはっ、おいの失恋の味を飲んでたもんせ」

「うふっ、失恋の味でございもすか。そいじゃ頂きもそ。わあっ、こいは苦か」

「あっはっはーほんのこっじゃな。こいは苦か味じゃわい」

「そげんいえば、高校の頃みんなして小島でキャンプしたこっがあいもしたわね」

「おおーそうじゃったな。あいは鹿児島の隼人ん小島じゃったな」

「あの時は夏休みでございもしたね。叔父さあの船で渡せっもろって」

「大潮じゃったもんで、昼前ん潮がずっと引っせぇ、小島ん船を付けがならじ、胸まで浸

かって渡ったとじゃったな」

「あっ、あにさあ。早かったじゃなかね」

「ほれ、これを。えろう話しが弾んじょったごたっどん、なんばあ話しちょったんか」

「あにさあ有難う御座いもす。こいで助かりもした」

「信勝どん、まあ一杯いっきゃんせ。ええっと、ほらユリ子さあが高校とっの夏休み」

「敬介どん、まあ待っちゃんせ。すっかい酔い醒めしもたごたっで、もう一杯くれんや」

「ほいきた。ほら飲んみゃんせ」

「ううん、こいは旨か。そいでユリ子が夏休みんとっと言えば」

「あにさあ、隼人ん小島でキャンプしたこつ憶えっおいもすか」

「なんじゃ、あんとっのこっか」

「叔父さあの家で水着ん着替えっせぇ、船に乗ったがね」

「ああーそげなこっもあったな」

「陽射しが強かったもんじゃっで、ユリ子さあは水着ん上かいバスタオルを被って」

「敬介どんと小島んテントを張り終えたら、いっき潮が満ち始めっせぇ」

「磯辺ん岩石ん上にビナ貝が這い上がっくいもんじゃっで」

「みんな採いも採らんか。面白かごっ採ったがな」

「3、40分の間じゃったどん、まこちどっさい採れっ」

「そんうち岩石も海水に沈んだもんじゃっで、テントん下で休んじょったら」

「ユリ子さあが竿を持っ出せっ、魚を釣っち言うもんじゃかい」

「じゃって退屈しちょったんじゃもん」

「おいが砂ゴカイを鈎に刺せっやったら、ふっとかわろを釣っ」

「いやーあんちなびっくい、ひったまげたがな」

「そいじゃっで、敬介ども、おいどんも竹竿を取っ」

「信勝どんとふたいで波打ち際かい仕掛けを投げっみたら」

「そしたら、色とりどりん魚がぼんぼん釣れっきたがな」

「まこちあん時は面白かごっ釣れもしたわね」

「ほんのいっとのこめ、竹籠ん入れもんがいっぱいになっ」

「あん竹籠もかなりふっとかとじゃったどんな」

「あんまい夢中になっちょったもんじゃから、腹がへっきっ」

「信勝どんと雑木を集めっきっ、火をつけっ」

「ユリ子が刺身を作っち言うもんじゃっで、おいどんたっは魚ん煮付けを作っ」

「ついでんビナ貝も湯がいて食ったら、こいが旨いのなんの」

「海水の味が染み込んじょったかいな」

「あら、もうこんな時間。わたし、そろそろ帰りもそ」

「ユリ子さあ、ゆっくいしていけばよかとに、もう帰っとでごわすか」

「うふっ、敬介さあがあんまい勧むいもんじゃかい、すっかい酔っ払っちゃったわ」

「こげんこっは、めったんなかこっじゃっで、もちった飲んいけばよかとに」

「じゃけんど、子どんたっも帰っくい頃じゃっで、そげんもしちょらないもはん」

「ううん、そげんこっじゃれば仕方なか。気をつけっ帰やんせ」

「あにさあ、そいじゃね。敬介さあ、まっがんしょ」

「ああーとうとうユリ子さあも帰っしもたな。とこいで信勝どん、今年ん六月灯は、どげ

なこっすればよかとじゃろか」

「そこあたいの、お方ん衆が踊る踊いげなかい、まず舞台の準備じゃな」

「シャンセンを弾いたり、歌を唱ったりすいじゃろかい、進行役が必要じゃなかか」

「まあーそげんこっじゃな」

「そん役は誰がよかどかい。よか適任者は誰かおらんけ」

「ん、敬介どん、おはんがやればどげんじゃ。あはっ、こいは面白かこちないかも知れも

さんな。うん、うん、そいがよか」

「あん、いや信勝どん、じょ冗談じゃなか。おいのような無骨もんじゃ務まいはずがなか

どが」

「うんにゃ、そげんこっはなか。返ってそん方がよかっじゃぞ」

「やいややいや、とんでもなかこっ言い出すもんじゃ。あんまい、からかわんじょくいや

んせ」

「まあーこんた冗談、冗談。おはんには他にやっもろわんないかんこっがあいかいな。敬

介どん、適役は誰かおらんけな」

「ほら、床屋ん和広どんなどけんじゃろ」

「おおっ、和広どんか。そいはよか。あんやた人を笑わすっとが好きじゃかいな」

「よし、こいで進行役はあんひょうきんもんの和広どんに決まりじゃな」

「ん、あっはっはっはーこりゃ長老ん衆も大喜びすっじろだい」

「親父さあたちゃ、そんつ見ながい飲んもろえばよかしな。ええっと弁当は」

「そいは心配なか。弁当は嫁女ん衆に作っもろこちぃなっちょい」

「おいどんたっのごっ若けもんな焼酎ん他に生ビールも飲もごたっじな」

「よか歳くったおっさんどんが若けも、へったくれもあったもんじゃなか。じゃっどん、

やっぱい若けもんな何時ずい経つてん若けもんじゃしな。うふっ、仕方なか」

「えっへっへっへー親父さあたっかい見れば、そげんこっじゃな。とこいで生ビールん手

配は、どげんなっちょいな」

「そいも心配せんでんよか。そんた一郎どんがもう手配ずみじゃかい」

「ヨウヨウすくいやら、金魚すくいの露店も出っとじゃろ」

「もちろんじゃ。そいにヤキイカ、タコヤキなんかの屋台も出っじゃろ」

「じゃっどん、おいどんたっも焼き鳥とかヤキソバを作いこちぃなったろ」

「うん、じゃったじゃった。そいがあっとじゃった。そん役は誰がよかどかい」

「ほら、あんボッケモンな何ちいうたっけ」

「ああーあいか。あんた岩男どん。ん、そげんじゃ、あんち任せちょけばよか」

「ほっどん、あんやたボッケモンもボッケモンじゃっじな。大丈夫じゃろか」

「うんにゃ、あんくらいボッケモンの方が返ってよかっじゃが」

「しかし、岩男どんに任すっと人使いが荒いこっじゃろな」

「ん、まあーな。じゃっどん、あん男は根がねかい、恨んやた誰もおらんじゃろだい」

「あん、こりゃまた一郎どん。どげんしたっな」

「そいがな敬介どん。いっとっ寝ちょったら、すっかい酔いが醒めっしもっ」

「うんうん、そげんこっじゃろ。ほいほい、ほら飲まんや」

「おっ、こいは信勝どん、まだ飲んじょったとな。おおっととっと」

「いま敬介どんと六月灯の打ち合わせをしちょったとこじゃ」

「おおーそげんこっじゃったか。まあー大体のこっは分かっちょっどん、どげなこちぃな

ったとじゃろかい」

「ほら、敬介どんの出番じゃっど」

「あんな一郎どん、舞台の進行役は床屋ん和広どんにやっもろこちぃないもした」

「ああーあんひょうきんもんか。そいはよか」

「そいかい焼き鳥とヤキソバが岩男どんじゃが」

「へぇーあん岩男どんか。あんボッケモンに務まいじゃろか」

「うん、おいもそげん言ったとじゃっどん、信勝どんが適役じゃろと」

「うむ、そげん言えば、案外そげんかもしれんな」

「あ、ん、そうじゃった。花火じゃ。花火は誰にすいか」

「信勝どん、そいは一郎どんに打ち上げっもろが」

「敬介どん、そげんじゃな。一郎どん、そいでどげんじゃろか」

「おう、よかど。そんたおいに任せちょけ」

「よし、こいで決まりじゃな。ん、蚊じゃ、蚊に咬まれた」

「こいはいかん。薄暗くなっきたもんじゃっで蚊が出っきたな」

「信勝どん、どげんすいや。こいで御開にすいこっじゃろか」

「んにゃ、まだ飲んど。敬介どん、一郎どん、家ん中に移っど」

「よしじゃ、まだ飲んど飲んど」

 一郎どんの声に、のんべぇどんたち三人が立ち上がった。ごろごろ、どかんと雷が遠く

で鳴った。




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著者  さこ ゆういち