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第二話ちょっと冒険イッシー君
海底火山の大爆発 
 ぼく、半年も西表島でのんびりと過ごしちゃった。
                                         
「うふっ、デブキチ親分は子豚さんみたいに太っているんだよ」

「ふん、よけいなお世話だぜ。イッシー君だってでっかくなりやが

ったくせに、なあイリオモテヤネコさん、そうだろう」     

「うおっ、にゃーご」

 デブキチ親分が不意に声をかけたもんだから、ヤマネコさんはび
                                         
っくりして、全身の毛を逆立てたんだ。

「ところでセマルハコガメさん、魚類から両生類へ、そしてぼくの 

ような恐竜へ進化するのがどうしてわかるの?」

「イッシー君いいかい。地球の各地で化石が見つかるのだけど、そ 

れをしらべるとわかるんだよ」                 

「へえーそうなの。でもどんなふうに進化したのかな?」

「たとえばだ、キノボリウオさんみたいな魚がヒレを手足のように

使って陸へあがるとして、最初は魚だからヒレには骨がないんだ。

だけど、長いあいだ陸で生活しているうちに、だんだんヒレに骨が

できていったのさ」

「ふん、ふん、にゃごにゃご」

 ヤマネコさんも進化論に興味をもったらしい。左手をペロペロな

めて、顔をふきながら、しきりにうなずいているんだ。

「さらに何万年、何千万年という長い年月をかけて、ワニの手足の 

骨のように進化したんだよ」

「なにが進化論だ。どうだかわかったもんじゃないぜ」

 デブキチ親分が水面上に顔を出して、水をかけたんだ。

 まったくもう、意地悪なんだから・・・・・・・・・・・。

「カメさんは本当にくわしいのだね」

「ニュージーランドには恐竜の子孫ムカシトカゲがいるし、・・・

そうだ、いま思い出した。昭和五十二年四月二十五日朝のことだっ 

たけど、そのニュージーランド沖で、日本の漁船が首長竜ではない

かと思われる生物の死体を引き上げたことがあったんだ。

 新聞やテレビで報道されたので、当時おおさわぎになったらしい。

「首長竜の死体だとは、はっきりわからなかったんだけど、この海 

域には今も恐竜が生きているかもしれないのだよ」

「ぎゃーお、にゃーん」

「これこれヤマネコさん、そんなこと信じちゃだめだぜ」

「デブキチ親分がどう思おうと、ぼくちゃんが生きているんだから

可能性は大いにあると思うんだ」

「大きくなったくせに、ぼくちゃんはないだろうイッシー君。うっ

ひっひー」                          

 ついつい昔の癖が出ちっゃた。ああ恥ずかしい・・・・・・・・。

「おーおい、イルカさんたちが来ているよ」

 ピョンと飛びはねて、キノボリウオさんが知らせてくれたんだ。

「イッシー君、いよいよ旅立つ日がきたようだぜ」
                                         
「いつ出発するのデブキチ親分」

「そうだな明日の夜明けにするか」

 イリオモテヤマネコさんやキノボリウオさん、セマルハコガメさ 

んたちと仲良く暮らしてきたんだけど、明日はお別れなんだ。
                                         
 ちょっぴりさびしいけれど・・・・・・・・・・。

「ピピッピーピピッピーピッピキピー了解した。イッシー君、イル

カ君たちも一緒に行くそうだぜ」

 イルカの親分が高周波で連絡してきたらしい。

「ミミズやエビをイカダに乗せて、イルカ君たちに運んでもらうこ 

とにした。もちろんイッシー君の食料である水草もだ」

「デブキチ親分はぬけめがないんだなあ」

 なんだか忙しくなっちゃった。だってさ、ぼくにイカダを作れっ

て命令するんだもん。

「どっこいしょ、よっこらしょ。重い重い」

 川まで丸木を運んでるんだよ。デブキチ親分はただ見ているだけ。

「デブキチ親分、もう四十本ですよ」

「よし、丸木はこれくらいでいいだろう。こんどは丸木をツルでつ

なぎとめるんだぜ」

 大変なんだから、作ってる身にもなってよ・・・・・・・・・。

「よしできたーっと。大きなイカダができちゃった」

 さて、イカダに食料を山のように乗せて、あとは出発を待つばか
                                         
りだ。

「泣いてくれるなーわが友よーーゆめの楽園ー愛しき西表島ーー」 

 つい歌っちゃった。                     

「さて、出発だ。さらばだ皆さん」

 とうとう一夜が明けたというわけで、カメさんたちと別れたデブ 

キチ親分とぼくは仲間川をくだって行ったんだ。

「イルカはいるか。イルカ艦隊、出動せよ」

 デブキチ親分がレダー装置をオンにして命令したんだ。     

 沖を見ると、どばん、どばんって海面を飛びはねながらイルカの

群れがものすごいスピードでこっちへやってくるじゃないか。

「イルカ艦隊、これより南へ向かって前進する。イルカ隊にはイカ 

ダを運んでもらう。しっかりと護衛(ごえい)せよ」

「イルカ隊はイカダを護衛します」

 イルカの親分がデブキチ親分の命令に答えたんだよ。

 イルカさんたちが首にツルのロープを巻きつけて、イカダを引く

んだってさ。

「イルカ隊、準備完了」

「イルカ隊は出発せよ。イッシー号、エンジン起動、全速前進せよ」

 南南東の方角に向けて出発したんだけど、どうしてイルカさんた

ちはデブキチ親分の命令にしたがうのかな。・・・・不思議だねえ。

 イルカ艦隊と原子力潜水艦なみのイッシー号は、青い空と青い海

原の太平洋をどんどん進んでいるんだ。

 ぼくのシッポ回転エンジンは太ったぶんだけパワーアップしたみ 

たい。

「イルカ隊に告ぐ。おまえたちの餌になるサバの群れがやってくる

ぞ。ゆっくり食べてくるんだぜ。わかったら行け」

 デブキチ親分のレーダにサバの群れが映ったらしい。

 なるほど、そうかそうか。イルカさんたちは餌になる魚の群れを

知らせてもらう代わりに、デブキチ親分の命令にしたがっていると 

いうわけか・・・・・・・・・・。

 上下左右へ飛び散って逃げるサバをイルカさんたちが追っかけて 

食べているんだよ。

「デブキチ親分、イルカさんたちはサバの逃げる方向を予知してい

るみたいですね」

「そりゃそうだろう。じつに見事なもんだぜ」

「それはそうとデブキチ親分、なんだか雲いきがあやしくなってき

ましたよ。

 行く手の先に熱帯低気圧が発生しているらしい。

「おれさまも先ほどから気になっていたんだ。どれ一万ボルトにパ

ワーアップしたレーダでしらべてみるか。ピピピピーツツツツー」

「心配だなあ。で、どうなんですか」

「どんどん発達しながらこっちに向かってやってくるぜ。こりゃ大 

型の台風になりそうだ」

「どうします。避難(ひなん)しますか」

「いや、このまま前進する。海底に潜れば影響はないだろう」

 まったくもうデブキチ親分は強気なんだから・・・・・・・。

「イルカ隊、食事はすんだか。これよりニューギニア方面へ向けて

出発する。全軍、全速前進せよ」

 だんだん赤道付近の海域に近づきつつあるんだけど、黒ぐろとし

た雨雲が空をおおい、ごうごうと強い風が吹きつけはじめているん 

だ。雨と風に叩かれて、波がざざっばしゃんと崩れて押し寄せてく

る。

「はやくも暴風雨の中に突入したらしいぜ。イッシー号、潜水を開

始せよ。イルカ隊も潜水せよ」

 海底は静かなもんだなあ・・・・・・・・・・。

「おっ、あれはなんだ」                    

 ぼこぼこぼこっ、ぼこぼこぼこっと、底からあわが出ているじゃ 

ないか。

「デブキチ親分、どういうことなの?」

「この海域には海底火山があるらしいぜ。イルカ隊は別行動をと

って偵察すること」

 さすがは大ウナギのデブキチ親分だ。決断がはやい。

「了解」

 イルカの親分が応答して、別れて行ったんだ。だけどぼくたちは、

いつの間にか、大きなうず潮に巻き込まれてしまっちゃった。

「うわあっ、目が回る。たすけてくれ」
                                         
ごうごうと、うずの中心へ向かって、どんどん近づいていくんだ。

「デブキチ親分、走行不能です」

 海上は台風で大荒れに荒れちゃってるし、もうどうすることもで

きないのか・・・・・・・・・・。

「こりゃあ絶対絶命だぜ。ん、そうだイッシー君よ。縄文杉のじい

さんが教えてくれた呪文だ・・・・。うず潮だぜ、うず潮」

 バカにしていたくせに、デブキチ親分はあの話しを憶えていたん

だなあ・・・・・・・・・・・。

 それとも苦しまぎれに思い出したというわけか。

「呪文はなんだったっけ・・・・・・・。そうだったそうだった。

ガラガラトントン・チュウセイダイ」

 ぼくは大声でさけんだんだ。

 と、すると、目の前がピカッと光り、ぼくとデブキチ親分は虹の

ような七色の光りのべールにおおわれたんだ。

「わあっ、わ、わ、わわわわあ」

 そして、今度はドドンと海底火山の大爆発だ。吹き上げられた溶

岩や海水と共に、ぼくたちはベールに包まれたまま上昇したんだ。 

 さらに今度はそのまま火口へと落下していく。あかあかどろどろ
                                         
とした溶岩の中に落ち込んでいったんだ。
                                         
「む、む、む・・・・・・・・・・・」
                                         
 ぼくは気絶したみたい・・・・・・・・・・・・・・。
                                         
もうなにがなんだかわからなくなっちゃった。


                                         

                                    
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著者  さこ ゆういち