トップページ
第二話ちょっと冒険イッシー君

「おい、おい目をさませ。ねぼけているばあいじゃないぜ」

 デブキチ親分にゆり起こされて、ぼくはやっと気がついたんだ。

「ふにゃふにゃああ・・・。ん、ここどこなの」

「なんだか様子がおかしいぜ。おい見ろよ島だ」

「霧がかかっていて、なんだか不気味ですね」

 おまけにある間隔をおいて火山が三つそびえているんだよ。てっ

ぺんからはそれぞれ黒ぐろとした煙りを空高く吐き出しているんだ。

「信じたくはないが、ここは恐竜の島みたいだぜ」

「きっとそうですよ。それにしてもちょっと寒いなあ」

「イルカはいるか。おーいイルカいないか応答せよ」

 応答なし。どうもはぐれてしまったようだ。

「仲間のブラキオサウルスと遭遇できたらいいのになあ」

「イッシー君、ともかく上陸して探検しようぜ。微速前進だ。何が

おこるかわからないから用心しろ」

 ゆっくりと島に近づいていったんだけど、火山は中腹までうっす

らと雪化粧しているんだ。

 空には太陽が大きくぼんやり、かげろうのようにかすんでいる。

「デブキチ親分、河口が見えます」

「よし、川をさかのぼってみようぜ」

 どろ沼のような川を進んでいくと、だんだん水かさが減ってきた

んだよ。

 右手の方角には火山がそびえ、左手はからからに乾いた大地に木

の根の残骸がぽつん、ぽつん、とかたむいているんだ。

「まだ少しだけ緑が残っている所もあるが、いずれ砂漠になるかも

しれませんね」

「この様子じゃそうなるだろうぜ。しーっイッシー君、恐竜がやっ 

てくるぞ」

 よった、よったと、よろめきながらタルボサウルスが火山の方か

ら草原に向かって歩いてきたんだ。

「デブキチ親分、あれは恐竜時代の終わりごろに暴れまくっていた 

肉食恐竜じゃないですか」

「ということは六千五百万年前の時代にいるということか・・・。 

ううん、とても信じられないぜ。ともかくイッシー君、後をつけて 

みろ」

 ぼくはタルボのやつに気づかれないように、そっと足音をしのば

せて後を追ったんだ。

 なにしろタルボサウルスって狂暴なやつで、気づかれると、ぼく

が食べられてしまうおそれがあるんだ。

「うわー、恐竜の骨だ」

 砂に埋もれるようにして、おびただしい骨の残骸が横たわってい 

るんだ。まるで、恐竜たちの墓場じゃないか。

「そうか、わかったぞ。セマルハコガメさんが話していた造山運動

の影響でこうなったんだなあ」

 西表島にいたある日、カメさんが次のような質問をしたことがあ

ったんだよ。

「イッシー君、山はどのようにしてできるのか知ってるかい?」

「火山活動によってでしょう」

「もう一つは陸が移動していることに関係があるんだ」

「ははん、大陸移動説ですね。それとどういう関係があるんです」 

「陸地や海底が動くということは大洋プレートが大陸プレートの下

にもぐり込んでいるわけだ。わかりやすくいうと土地が地球内部に

もぐり込んでいるわけなんだ」

「そのとき片方の土地や海底を押し上げて、巨大な山々ができると

いうわけですね。だけど、もぐり込んだ土地はどうなるんですか」
                                         
「もぐり込んだ時の摩擦熱で、どろどろに溶けてしまうのだよ」

「仮説ですが、その分だけ火山爆発で、地上に出てくるといえませ

んかね」

「さあーそれはどうだろう。けれど循環関係があるかもね。まあー

地球が生きているということかな」

 カメさんの説は非常に興味あることだったので、憶えていたんだ。

 そうしてできた新しい山脈が大気の流れをさえぎったもんだから、

気象が変わってしまったというわけだ。

 つまり、雨がふらなくなって植物が枯れてしまったんだ。となれ

ば、まず草食恐竜が死に絶えるだろう。そしてそれを食べていた肉

食恐竜も死に絶えるわけだよね。

「ほう、まだ森があったんだ」

 タルボサウルスは森の手前で、乾いた土地に穴を掘って卵を産ん

じゃった。

「あれっ、タルボのやつ死んでしまったぞ。どうやらこの島の恐竜

の最後の一頭だったらしいな」

 そのまましばらく様子を見ていたら、森のかげから小さな動物が

数頭かけ出してきたんだ。

「あれは、ほ乳類型は虫類から進化したほ乳類で、ネズミのような

原始獣じゃあないか・・・・・。あーあ最後に残ったタルボの卵を 

食べちゃった」

 おだやかで温暖な環境の中で、この島の恐竜たちは数億年という

長い間、進化したりしながら生きてきたんだ。

「しかしまてよ・・・。そうか。ここの恐竜絶滅の謎は造山運動が
                                         
原因だったんだなあ」

 これからはほ乳類が進化する時代なのか・・・・・・・・・。

「おっと、いけないデブキチ親分のことをすっかり忘れていた。き

っと怒ってるぞ」

 どっしんこ、どっしんこ、と地ひびきをたてながら、ぼくは急い

で引き返したんだ。

「イッ、イッシー君、お、遅かったじゃないか」

「デブキチ親分、顔色が悪いですよ。大丈夫ですか」

「火山の爆発で噴き出した溶岩の成分に毒素があったらしく、それ

が川の水に混入したんだ。ううん苦しい」

「そりゃ大変だ。海へ連れて行きますから、ちょっと辛抱してくだ

さいよ」

 デブキチ親分を前足に乗せて、ぼくはフルスピードで川をくだっ

ていったんだ。



ツールバーの戻るボタンをクリックしてね。ツールバーの戻るボタンをクリックしてね。                                         
恐 竜 の 島
著者  さこ ゆういち