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カメさんの進化論
第一話ちょっと冒険イッシー君
  速い、速い。石垣島を通りすぎて、もう西表島に着いちゃった。

 「仲間川の河口ですよ」

 「おれは先に行ってるぜ」

 「あーあ行っちゃった」

  ぼくはもう怒ったりなんかしないよーだ。それにしても、ここ西表島は日本

 列島さいごの秘境の島なんだ。

 「さあ探検、探検。なんだかワクワクしてきちゃった」

  ジャングルの中に竜が寝そべってでもいるかのように、くねくねと流れてい

 る仲間川を上流に向かって、ぼくはどんどん進んでいるんだ。

 「亜熱帯植物やシダなどが生い茂っているジャングルの中にいると、恐竜でも

 出てきそうな感じ・・・・・・・。おっ、あれはなんだ。赤く光るものが二つ、

 こちらをにらんでいるぞ」

  暗い木の葉の奥に何か動物がひそんでいるみたいなんだ。

 「おおーい、ぼく恐竜のイッシーだけど、出てきて話しでもしないか」

 「うおーにゃーん。狩りの最中なんで話してるひまなんかないよ。夜が明ける

 前に獲物を獲るんだから。あばよ」

 「あーあーいっちゃった」

  生きた化石のイリオモテヤマネコだったんだ。

 「夜行性なので目が赤く光って見えたというわけか。うんうん納得」

  マングローブや野ヤシの群生した原始的な美しさの中で狩りをしながら暮ら

 しているんだ。

 「いいな、いいな。ぼくちゃんもここで暮らそうかなーっと」

 「なにをボーッとしてるんだ。もうすぐ夜明けだぜ」

  いつの間に来たのか、デブキチ親分が声をかけてきたんだ。

 「今まで何をしていたんです」

 「一晩中ミミズやエビを追って、食べていたんだ。あーあーあー・・・・眠く

 なってきたぜ。マングローブの根っこにでも、もぐり込んでひと眠りするか」

  そういえば、親分も夜になると目が赤く光ってたなあ。エビも赤く光るから

 夜行性だったんだ。

 「ぼくジャングルの中をちょっと散歩してくるよ。デブキチ親分は寝ていてね」

  ぼくは御座岳の方に、そろっとゆっくり歩いて行ったんだ。だんだん空が明

 るくなってきたな、と思っていたら高いヤシの木がちらほら立っている森に出

 たんだ。

 「のどがかわいたなあ。ヤシの実のジュースでも、ごちそうになろーっと」

  ぼくは長い首をのばして、ヤシの実をもぎとったんだ。

 「ごっくん、ごっくん、ああーうまかった。おやっ、こんな所にカメがいるぞ」

 「おいでっかいの、おれは陸に棲んでいるんだ。こんな所とはなんだ」

 「ごめんごめん。ぼくは恐竜のイッシーだよ。よろしくね」

 「おお恐竜か、恐竜とはなつかしいなあ。おれたちカメの仲間も恐竜の時代か

 ら生き残ってきたんだ。まあー仲良くしようぜ」

  頭や前足、後ろ足を甲羅からニョキッと伸ばし、セマルハコガメがにっこり

 したんだ。ごっそり、ごっそり、やけにゆっくり歩くんだ。

 「イッシー君とか言ったな。仲間川のマングローブ林に行ってみなよ。四億一

 千万年ぐらい前、魚類が陸に上がり、両生類に進化したのを想像させるような

 キノボリウオがいるからさ」

 「へぇーそんなのがいるの。カメさんもいっしょに行こうよ」

 「じゃ、少しの間つきあってやるとするか」

  ぼくはカメさんをシッポの先っちょに乗せると、仲間川の方に引き返したん

 だ。デブキチ親分はいい気持ちで寝ていることだろう。

 「イッシー君、ほらあれだ。あそこにいるやつ、あれがキノボリウオなんだ」

 「うわーあんな高い所にのぼってるじゃん」

  有明海に棲むムツゴロウをちょっと小さくしたような魚なんだけど、そいつ

 が胸びれを手のように使って、マングローブのかなり高い所によじのぼってい

 るんだ。ドングリまなこを、きょろきょろさせちゃってさ。ちょっと可愛い。

 「おおーいキノボリウオさん、なにをしているんだい。ちょっとおりてこいよ」

  カメさんが首をのばして叫んだんだ。

 「虫をとらえて食べているところだよ。ああーうまかった。・・・・・えい」

  気合いの入ったかけ声をかけて、キノボリウオさんはパッとダイビングして

 川の中に飛び込んじゃったんだ。

 「イッシー君、見てのとおりだ。ああやって海や川、湖から魚類の一部が陸に

 這い上がって、両生類に進化したんだ」

 「なるほど!」

 「さらにだ、二億八千万年前ごろになると両生類の一部から(は虫類)つまり君

 のような恐竜に進化したものが現れたんだよ」

 「ふん、ふん」

 「だんだん進化してるうちに(ほ乳類型は虫類)と(祖竜類)のふたつのグループ

 が現れたんだ」

 「ほ乳類型は虫類ってなんなのカメさん」

 「ほ乳動物に進化する爬虫類のことさ」

  カメさんは頭がいいんだな。感心、感心。

 「へぇー、じゃ哺乳動物の祖先は爬虫類ってことなの」

 「そうさ、化石を調べるとわかるんだけど、哺乳類の特徴のある爬虫類がいた

 んだよ」

 「仮説にしてもすごい話しだね」

 「環境の変化に適応するために、生物たちは進化したり、退化したりしたわけ

 だ。あるものが滅ぶと、それにとって変わる生物が繁栄したんだ」

 「そんなことを繰り返してきたんですか」

 「ところで、おれたちカメは恐竜の時代から姿がほとんど変わっていないのさ」

 「カメさんたちは進化していないというの」

 「多少の変化はあったにしてもだ、それがおれたちカメの自慢なんだ」

 「カメさんはぼくと同じ爬虫類の仲間だし、親戚みたいだね」

 「おい兄弟、恐竜みな仲間あるね」

  進化論もおもしろかったけれど、そろそろ腹がへってきちゃった。

 「 カメさん、また後で話しの続きは聞かしてね」

 「時間はたっぷりあるんだし、またゆっくり話そう」

 「ぼく食事してくる」

 「ゆっくり食べてきな。昼寝でもするか」

  ここ二、三日のんびりしちゃった。少し太ったかな。

 「しばらくの間ここで暮らそうよ。せっかくイリオモテヤマネコさんやキノボ

 リウオさん、セマルハコガメさんたちと友だちになったんだから。ねぇデブキ

 チ親分いいでしょう。ほく西表島が大好きになってしまっちゃった」

 「そうだな、太平洋を横切って南の海域に旅立とうと思っていたんだがね。し

 かし、考えてみると、ここから先は島の近くをほとんど通らないんだ。よし、

 しばらく休養することに決定するぞ」

  デブキチ親分が水面上に顔をぴょこんと出して、うなずいたんだ。

 「南の海には縄文杉のおじいさんが教えてくれた恐竜の島があるかもね。ええ

 っと呪文は、ううん・・・・・・ガラガラトントン・チュウセイダイだったか

 な。うん、そうだそうだ。ガラガラトントン・チュウセイダイ。ガラガラトン

 トン・チュウセイダイっと」

 「なにがガラガラトントンだ。ふん」

  第 一 話 お わ り



  あとがき

  この物語はフィクションであり、いささかS F的になってしまいました。第

 二話では恐竜の島の出現で益々その色合いが濃厚となっています。

  南九州のこの地は南西諸島にのびる霧島火山帯の中心部でもあり、姶良カル

 デラという巨大な火口があったとされています。それが陥没して現在の鹿児島

 湾や錦江湾になったようです。

  今は島でない霧島、かっては海水がひたひたと押し寄せていたらしいのです。

 恐竜時代以前の地層からフズリナという海生で原生動物の化石が出てくるので、

 やはり島だったのではないでしょうか。

  イッシー君とデブキチ親分はこれから南の海に旅立ちますが、はたしてどん

 な冒険が待っていることでしょう。

  


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著者 さこ ゆういち