トップページ
ローラは ぼくの光
タケシの童話

 タケシの机の上にパソコンや周辺機器が置かれて、四日が過ぎた。

「ローラ、タヌキは夜行性の動物だから、昼間は殆ど人目にふれな

い。でも中には昼間やってきて、庭で餌をもらうやつもいる」

 パソコンを前に、タケシは童話のストーリを考えながら、足元

に伏せているローラに声をかけた。

「クーン、ククーン」

 ローラがうなずいているかのように低く唸り、顔を少しあげたよ

うだ。

 移転する前に暮していた隣の市は、近くに小高い山があり、森

や雑木林が各所に残っていた。

「ぼくが小学生になった頃から交通事故で死んだタヌキをよく見か

けるようになった。開発が進み、人家が増えてきたからだ」

 もともと、動物ずきのタケシである。タヌキに興味をもったのは

いうまでもないことであった。

「自然観察会に入会したのは、いつの頃だったかしら」

 母さんが寄ってきて、ジュースの入ったコップをタケシの手に握

らせながら、さりげなく聞いた。

「二年生の時の冬休みだったかな」

「そうそう、あれからずっとタヌキの生態調査をしてきたのじゃな

かった」

「そんな大げさなものじゃなかったけど、事故で死ぬのは親ばなれ

した子ダヌキが多いいとや、タヌキの通り道にタメフンがあること。

そのフンを調べて、タヌキがどんなものを食べていたか、というよ

うなことを観察してきたんだ」

「事故死するのは、そこがタヌキの通り道になっているからだと、

いっていたわね」

「そうなんだ。タヌキの行動範囲の中で車道を横断しないといけな

い所があるんだ」

  (タヌキの棲む町)山上タケシと、映し出されているパソコンの

画面を、母さんは見ているようだ。

「さしずめ、タケシはタヌキ博士ってところね」

 母さんはそういって、うふっと笑った。

 ローラが鼻先で、タケシの足を小突いてくる。

「よしよしローラ、散歩に行こう」

           タヌキ棲む町 山上 タケシ 作

 さくらちゃんの家の庭に、ゴンの一家がやってくるようになった

のは、学校が夏休みになる三日ほど前でした。

 ゴンはお父さんダヌキ。ゴンと名前をつけたのは、さくらちゃん

です。はじめてゴンが姿をみせたとき、お寺の鐘がゴーン・・・・

ゴーンと聞こえてきたからでした。

「タヌキさんはパンを食べるかしら」

 さくらちゃんは小学校の一年生で、ちょっといたずら好きな女の

子。動物が大好きです。

「ほーら」

 家からパンを取ってくると、さくらちゃんは庭に投げてやりまし

た。けれどもゴンは、さくらちゃんの顔をジーッと見ているだけ

で、動こうとはしませんでした。

「なにもしないから」

 しばらくして、さくらちゃんがほほえんで、つぶやきました。

 ゴンはあたりをキョロキョロと見わたして、一、二歩前に進んだ

のです。するとどうしたことでしょう、お母さんダヌキと三びきの

子ダヌキが出てきたではありませんか。そしてパンを食べはじめた

のです。

「わあーかわいい。でもゴンはなぜ食べないの」

 ゴンは父親として、子ダヌキたちが食べ終わるまで見はっている

つもりのようです。

「みんなに名前をつけてあげよーっと」

 と、その時、庭つづきの雑木林の方からセミが鳴きだしました。

「お母さんダヌキはミンミン。ん、いい名前だわ」

 さくらちゃんは目をほそめて、うなずきました。

・・・ピンポン。ピンポン・文書作成中です・つぎの行はどうしま

すか・ピンポン・ピンポン・・・

 パソコンのスピーカーからの音声を聞き終えて、タケシはローラ

の頭を撫ぜた。

「ローラ、ここまで十日がかりだ」

 ローラは尻尾を振っているようである。

「タケシ、いい童話じゃないか」

 父さんがタケシの肩をポンと叩いた。

「まだまだ途中だけど、なかなか傑作になりそうだわね」

 母さんが父さんに同調したように声を高めた。

「後は三びきの子ダヌキの名前だ。ううん・・・・」

 タケシは思案した。こうして考えにふけっていると、目の見えな

いことも、なにもかも忘れてしまう。

「そうだ、ローラだ。この童話の中にローラを登場させよう。きっ

と面白くなるぞ」

 ふと思いついて、タケシがふふっと楽しげに笑った。

 足元で、ローラがごそっと動いた。





ツールバーの戻るボタンをクリックしてね。
著者  さこ ゆういち