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第二話ちょっと冒険イッシー君
恐竜のプロレス

「これから島を探検する。イルカ隊は河口をさがしてくれ。・・・ 

イッシー号はゆっくり前進」

 だんだん島に近づいているんだけど、すみきった浅い海底に岩礁の 

色そっくりな大きいサメがまぶたを閉じて静かに休んでいるんだ。 

まるで爆撃機が沈んでいるみたい。

「了解了解。イルカ隊から連絡が入った。どうやら河口を発見した
                                          
らしい。イッシー号、おもかじいっぱい」            

 ぼくは右方向に大きく回り込んで前進したんだ。

「前方にイルカさんたちが見えてきました」

 それにしても幅の広い、なんと大きな河口なんだ。       

「これより河口をさかのぼろうぜ。今回はイッシー号を先発とする。

イルカ隊はわれわれの後方を護衛してもらいたい」        

「了解、イルカ隊は隊長殿の後方を護衛します。一番隊三頭、二番

隊五頭、三番隊七頭。各隊とも平行態勢で進行せよ」

 イルカの親分が部下のイルカさんたちに命令したんだ。

「いやあー見事な隊列を組んじゃったな」

「イッシー号、先発だ。前進せよ」

 気温が高く、とても暑い。けれど、川の水が冷たいので気持ちが

いい。だんだんと奥地に入ってきちゃった。

 広い川幅の両岸から大草原が広がり、亜熱帯植物なども所どころ

に茂っているんだよ。

「イッシー号は潜望鏡を浮上し、偵察せよ」

 ぼくはググーンと首をのばし、眺め回してみたんだ。すると、は 

るか彼方には火山が七つもあるじゃないか。しかも七つとも火の粉

と共に黒煙を吹き上げているんだ。しずかに噴火しているので、す

ごく不気味な光景なんだ。

「わあっ、恐竜の戦いだ。デブキチ親分、これはすごいすごい」

「どこだ、どこだ。おれを頭に乗せろ」

いやになっちゃうな・・・・・・・・・。           

「はい、はい。どうぞ」                    

 デブキチ親分を頭に乗せて、ぼくは首をのばしたんだ。       

「これはすごい戦いだぜ。あの二本足で歩く怖い顔の恐竜が、角か 

ぶとの恐竜に襲いかかっていくぞ。・・・・・・今度は角かぶとの
                                          
恐竜が突進するぜ。こりゃ面白くなってきたぞ」         

 角かぶとの恐竜は命がけで戦っているというのに・・・・・。 

「面白がっては、かわいそうじゃないですか」

 後方ではイルカさんたちが整然と隊を組んだまま、オビレを水平

にせわしく動かして水面上に立ち上がり、見物しているんだ。    
                                         
「二本足で歩く大きい方は、けもの竜のティラノサウルスですよ」 
                                         
 後方の隊から近づいてきたイルカの親分が声をかけてきたんだ。                                          

「そうか、あれが肉食で獰猛なティラノサウルスか。で、角のある                                          

方はなんだ?」                        
                                         
「隊長どの、あれは角竜のトリケラトプスであります。草食で、お 
                                         
となしい恐竜なんです。ところが襲われると、角を武器にして身を                                          

守るのであります」                      
                                         
 全長八メートルもあるサイのようなトリケラトプスが、目の上の 
                                         
二本の角と鼻の上にある一本の角を武器にして戦っているんだ。  
                                         
「なるほど、なるほど。うん、うん」              
                                         
 二本足歩行のティラノサウルスは全長十五メートル。ぎらつく目、
                                         
二十センチもある鋭い歯、大きなあご、太い首すじ、二本の鋭いカ 
                                         
ギ爪のある前足、太くがっしりした後足、太くって短い尾など、ど 
                                         
こを見ても恐竜の王者にふさわしく、強そうなやつなんだ。    
                                         
「あっ、すばやい回し蹴りだぜ」                
                                         
 突進してきたトリケラをティラノが片足を引いて蹴ったんだ。ト 

リケラはがくんと倒れ込んでしまったけれど、もう一頭いる別のト 
                                         
リケラトプスがそれをかばって突進。              
                                         
「前足というより、手といった方がいいかな。そのカギ爪で今度 

のヤツはとっ捕まえちゃった」

「こんどはネックハンキングツリーだぜ」            

 デブキチ親分はプロレスの解説でもしているつもりかな・・・。

 首を締めながら、ティラノがトリケラを高だかと吊り上げたんだ。

「さらにボディスラムだ。ティラノってまったくすごいやつだぜ」

 トリケラを地面に投げ、たたきつけたんだ。          

「とうとうトリケラはかみつかれちゃったぜ」          

「まったく残酷なんだから」

 と、その時だった。火山のひとつがドドン、ドドンって大噴火し

たんだ。

「きゃっ、あぶない。噴石が飛んでくる」

「あっ、噴石がティラノの頭を直撃したぜ」

 ティラノサウルスはギャーオーと叫び、ドッターンってひっくり

かえって、のびてしまったんだ。
                                         
「トリケラが逃げていっちゃいますよ。よかったですね」

「のんきなことをいってる場合じゃないぞ。こっちにも噴石が飛ん 

でくるぜ。みんな潜水せよ。いそげ急げ」

 ぼくの頭から、デブキチ親分はあわてて滑り落ちたんだ。

「デブキチ親分、これからどうしますか?」

「そうだなあ、もう少し奥地の方に入ってみるか」

 流れくる水に逆らいながら、ぼくたち全員はどんどん進んでいっ 

たんだ。

「デブキチ親分、だんだん流れがゆるやかになってきましたよ」

 川幅がぐっと広がり、浅くなってきたんだ。          

「前方は沼になってるぜ」                             

「おやっ、浅瀬のところに何かいますよ」

「どこだ、どこだ。ああーあれか。ありゃなんだ」        

「足には水カキがついていますよ」               

「隊長殿、あれは草食性の恐竜でトラコドンというやつですよ」

 すばやく後方から泳いできて、イルカの親分が答えたんだ。

「へぇそうか。まるで、口はカモのくちばしだぜ」

 トラコドンはハドロサウルスともいって、全長十メートルから二 

十メートルもあるんだ。水中や水辺に棲んでいて、方向をシッポで

コントロールしながら、水カキで漕いで進むんだ。

「ちょっと見た感じではカッパのようですね」

「いつの間にか、沼に入っちゃったぜ。わあっ、いろんな恐竜がう

じゃうじゃいるぞ」

 沼のまわりはジャングルになっているんだ。
                                         
「隊長殿、急いで逃げてください。ティラノが襲ってきますよ」

 イルカの親分が大声で知らせてくれたんだ。

「イッシー号、潜水開始。・・・うわあーわわわわー・・・・電撃 

砲発射」

 あまりにも急に後からティラノサウルスが襲いかかってきたもん 

だから、大あわてにあわてたデブキチ親分がビリビリバリバリ、ド 

カンドカンって撃ちまくったんだ。

「シッポに当りましたよ」

 一万ボルトの電撃を受けて、ティラノのやつはピクン、ピクンと 

身体をシビレさせているんだけど、鋭い目でこちらをにらみながら 
                                         
今にも立ちあがってきそうな気配なんだ。  

「デブキチ親分、危ないところでしたね」

「まだ安心はできないぞ。・・・・見ろ、ティラノのやつが動き出 

したぜ。うむ、よし、イルカ隊は偵察せよ。イッシー号は潜水」

 というわけで、ぼくたちは沼の底に潜っていったんだ。

「隊長殿に報告します。ここにはトンネルみたいになっている穴が 

たくさんあります」                      

 イルカの親分がスーと近寄ってきたんだ。

「いやーごくろう、ごくろう。ついでに一番おおきな穴を探してき

てくれ」

「了解しました。すぐに見つけて報告します」





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著者  さこ ゆういち