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迷路のトンネル

 くるっと向きをかえて、イルカの親分はサッと消えちゃった。

「デブキチ親分、どうするつもりなんですか?」

「トンネルの中がどうなっているのか探険するのだ。こりゃーおも

しろくなってきそうだぜ」

 デキキチ親分はゆかいそうに笑ってるけれど、どうせまたぼくを

こき使うつもりなんだろう。おおーいやだ、いやだ。

「隊長殿、一番おおきな穴はあちらの方にあります」

「よし、すぐに案内せよ」

 イルカの親分を先頭に、ぼくはデブキチ親分を前足に乗せて出発

したんだ。この沼にはサンショウウオのような両生類や、ワニのよ

うな爬虫類がいっぱい泳ぎ回っているんだよ。もちろん魚類や、大 

きなカメも。それに、これまた大きな巻き貝もいるんだ。

「隊長殿、ここです。ここが一番おおきな穴なんです」

 すみきった水を満々とたたえたトンネルの入り口で、イルカの親

分が後を振り向いたんだ。

 トンネルの奥から、かすかに流がれてくる水を受けて、水草がゆ 

らゆら、となびいているんだ。

「おれさまは、この奥を探検する。イルカ隊は二番目に大きな穴を

探して、探検せよ」

 いつものことだけど、デブキチ親分は勝手なんだよね・・・・。

「了解しました。われわれイルカ隊はこれより出発します。・・二

列進行、前進開始」

「さて、おれたちも出発だ。イッシー号、エンジン起動。ゆっくり

前進せよ」

「はい、はい、わかりました。ゆっくり進めばいいのでしょう」

「デブキチ親分、奥が真っ暗で何も見えません。これじゃ前進でき

ませんよ」

 デブキチ親分は大ウナギで夜行性だから、見えるんだろうけど。

「まったく、こまったやつだぜ。まあ、しかたがないか。おれさま

が前をライトで照らしてやろうじゃないか。・・・スイッチON」

「わあーすごいんだな。さすがさすが。・・・パーッと明るくなっ

て、ずいぶん先の方までよく見えますよ」

「そりゃーそうさ、あたりまえだろう。一万ボルトだぜ。一万ボル

ト。おっほん、おっほん」

「またまたデブキチ親分を見なおしちゃった」

 先の先までよく見える明かりを頼りに洞窟の奥へ奥へと、どんど

ん進んでいったんだ。

「デブキチ親分、道筋が五つに分かれていますよ。どれを進みます

か?」

「そうだなあーどれにしようかな」

 まよったあげく、デブキチ親分はヒレをピーンと張って、逆立ち

したんだ。そして力をぬいたらしく、ひらひらと左に傾いたんだ。

「よし右だ。いちばん右のトンネルにしようぜ」

 左に傾いて、なんで右なの。へんなデブキチ親分・・・・・。  

「もうだいぶ奥へ入ってきちゃったみたいだけど、出口はあるんで

すかね?」

「おれさまにもわからんのだが、ここまできては前進あるのみだ」

 くねくねと果てしなく続くトンネルの中で出口を求めて、ぼくた 

ちはさまよっているんだけど、右の方にも左の方にも行ける別のト

ンネルがあっちこっちにあるんだよ。

「こんどはどっちに行くんですか?」

「ううむ、こりゃーまるで迷路だぜ。やっぱり右だ。とにかく右へ 

右へと進んで行け」

「わっわっわあー痛い痛い。足が痛い」

 ぼくの足を魚がするどい歯でかみつくんだもん。しかも、なん匹

も一度にかみついたんだ。

 五、六十センチぐらいの魚なんだけど、ピラニアのように獰猛な

んだ。

「こりゃーいかん、大群だ。イッシー君にげるんだ。うひゃーっ」 

 ぼくはシッポをふる回転させて、もうスピードで逃げたんだ。

けれど、ある距離をおいて、この魚どもはぴったりと追っかけて

くるんだ。

「わあー前の方からも襲ってきますよ」

「左だ。左のトンネルへ逃げろ」

 すぐそばにある左側のトンネルに、ぼくは全速力で逃げ込んだん

だ。そこをどんどん進んで行くと、またまた三つにトンネルが分か

れているじゃないか。

「あっ、もうだめです。三つの入口からも、やつらが出てきます。

デブキチ親分、電撃砲を使ってください」

「電撃砲は洞窟の中じゃ使えないぜ」

「ええっ、どうしてなんですか?」

「ここでは電撃波が岩に当たり、はねかえってくるからだぜ」

「だからって、なぜ使えないの」

「わからんやつだぜ。あきれはてたもんだ。つまり、おれたち自身 

も危険にさらされるってことだぜ」

「ばかにしないでよね。ちゃんと説明してくれたら、わかるんだか

ら。それじゃ防衛不可能なんですか?」

「ん、まあーな。・・・・しかし、おれさまにも考えがある。電撃

砲はだめだが、電磁バリヤーを張りめぐらせてやるぜ」

 たのもしいデブブチ親分さまだこと。様さま・・・・・・・・。

「じゃ、はやく張ってくださいよ」

「エネルギー放射率三十パーセントでいいだろう。ただいまから出

力を開始する」

 バリバリバリって、ぼくたちはバリヤーで囲まれちゃった。

「前からも後からも上からも無数に襲いかかってきます。デブキチ

親分、大丈夫なの」

「心配いいもはん」

 心配はないと、デブキチ親分が鹿児島弁でしゃべったんだ。

 魚どもは鋼鉄のようなするどい歯で、四方八方からいっせいに突

撃してくるんだ。けれども、電磁バリヤーにぶち当って火花を散ら

し、ビリビリぐるぐるって、シビレてしまっちゃった。

「たった三十パーセントの出力でもバリヤーの威力はすごいですね」

「おっほん、えっへん、どんなもんだ」

「はい、はい。いくらでも威張ってちょうだい。・・・・でもでも

なんだか変だな。そうだった、そうだった」

 ぼくはシッポが長いことを、ついうっかりしていたんだ。

「ああっ、痛い痛い。おお痛い」

 シッポがバリヤーから、はみ出していたんだ。で、魚どもに噛み

つかれちゃった。

「デブキチ親分、もう少しバリヤーを大きくして。痛い痛い。はや

く、はやくして。・・おねがい」

「よし、わかった。エネルギー放射率を五十パーセントにアップし

てやるぜ」

「ふーう、助かっちゃった。ありがとうデブキチ親分」

「イッシー君、礼はいいぜ。それよりもだ、このままの状態で前進

開始だ」

 ぼくたちはバリヤーに包まれたまま、暗い洞窟の中を進んでいる 

んだけど、行けども行けども出口がないの。

 魚どもは、まだまだ襲いかかってくるし、そのたびにピカピカパ

チパチと火花を散らしているんだ。

「デブキチ親分、若葉のかおりが微かに漂ってきます」

「どっちからだ。わかるか」

 トンネルは満まんと水をたたえているんだけど、ちょっとだけ上

の方に空間があって、空気が流れ込んでいたんだ。

「前方にある四つのトンネルの、左から二番目のやつです」

「よし、そっちの方に行こうぜ」

 そこを進んでいるうちに、いつの間にか魚どもは消えて、いなく

なっちゃった。

「もうバリヤーはいらないみたいです」

「やっと、らくになったぜ」

「デブキチ親分、また入口が分かれていますよ」

「今度はどっちなんだ」

「右の方です。さっきより若葉のかおりが強くなっています」

「それじゃ出口が近いぞ。全速全進だ」

 この迷路から、デブキチ親分もはやく脱出したかったらしい。

「前方の上空が明るくなってきましたよ」

「うひゃ、やっと外に出られるぜ」

 デブキチ親分が喜んでいるんだ。よっぽど嬉しかったんだろう。

「うわーきれいだな」




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著者  さこ ゆういち       
第二話ちょっと冒険イッシー君