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仲間のブラキオサウルス
 上の方から、七色に輝く光りの束がパアーッと射し込んでいるん 

だ。

「いやはや、なんとも見事なもんだぜ」

「デブキチ親分、上には大きな池があるようです」

「イッシー君、潜望鏡をあげて外のようすを見てくれ。そして、す

ぐに報告せよ」

「はい、はい」

 ぼくは長い首を空高くのばしたんだ。すると、池のまわりには大

きな木や、これまた大きな草が生い茂っているじゃないか。

「おやっ、ハゲタカのような鳥がいますよ」

「な、なんだって、鳥がいるだと」

「ほら、あの木の枝に。・・・でも、なんだか奇妙な鳥ですよ」

 翼の肩に手のような、指のようなものがあるんだ。

「ほんとだ。トカゲのようなものを食べてるぜ」

「だけど、鳥にしてはそんなに飛べないみたいですね」

「そうだ、思い出したぜ。あれは一億五千万年ほど前の始祖鳥じゃ

ねえか」

「どうも、そうらしいですね」

 セマルハコガメさんが話してくれたことを思い出したんだ。
   
「始祖鳥は小型肉食恐竜が鳥に進化した鳥類の祖先ということにな

っていたんだぜ」

「だけど、その後の説では、始祖鳥は鳥そっくりになった爬虫類だ

そうですよ」

「つまり、鳥に進化しそこなったってわけだ。あわれなもんだぜ」

「あとから後から出てくる化石を調べて、わかったらしいですね」

「なんでも、始祖鳥より七千五百万年も以前にいたプロトエイビス

の方が鳥により近い形質で、鳥類の祖先はこっちの方だとする説が

有力になってきたらしいぜ」

「まあーどちらにしても爬虫類から鳥に進化したことは、まちがい

じゃないようですね」

「それにしても、あれはなんだ。イッシー君にそっくりだぞ」

 話し込んでいるうちにタイムスリップしたみたいだ。とうとう、

ぼくと同じブラキオサウルスに出会っちゃった。

「ああ、なつかしい」

 どんどん、こっちにやってくるんだ。

「イッシー君、つもる話しもあるだろう。さあー行ってきな」
   
「じゃ、さっそくだけど、行ってきます」

 デブキチ親分を後に残して、ぼくは岸辺に急いだんだ。

「やあやあ、 みなさん、こんにちわ」

 ブラキオサウルスの群れに近づいたので、ぼくは声をかけたんだ。

「この子、あんまり見かけないけど、どっからきたのかしら」
   
「ぼくイッシーだけど、とおい、とおい未来からきました」
    
「あら、そうなの。わたしミッシー、よろしくね」

 群れから離れて話しかけたのは、女の子のブラキオサウルスだっ

たんだよ。

「ところで君たち、なにをしているの」

「みんなで世界中を移動している途中なのよ」

「へぇ、おどろいた。本当に歩いて行けるの」

「そうよ。今の地球は陸地が一つだから」

「つまり、アメリカ大陸もアフリカ、ヨーロッパ、アジア、オース 

トラリアなど、陸続きの一つの大陸だってこと」

「地名なんて知らないけれど、そうなのよ」

「話しは変わるけど、ぼくのお父さん、お母さん知らないかな」
   
「さあーそんなこと知らないわ。わたしたちのグループにはいな

いみたい」

「いまさら会えるわけないぜ。あきらめるんだな」

 デブキチ親分が水面からピョコンと頭を出したんだ。どうやら

後を追ってきたらしい。

「薄情なんだから、もう。ぼく、なんだか悲しくなっちゃった」
  
「これも人の世の、じゃなかった世のさだめだぜ。いつまで、めそ
 
めそしてるんだ。先を急ぐぞ」

「しかたないな。それじゃミッシーさん、さようなら」

「また会える日を楽しみに。・・・さようなら」

 ぼくとデブキチ親分は池から川に出て、内陸部に向かったんだ。 

 逆回転していた時間が正常になり、すごい速さで回り出したみた

いなんだ。

ふと見あげると、まっかに燃えた小惑星が落ちてくるんだ。

「あれは地球の大気による摩擦で燃えているんだぜ」

「ふうん、じゃ小さな隕石なら落ちる前に燃えつきてしまいますね」

「わあっ、ものすごい爆発だぞっ」

 富士山ほどもある大きさの小惑星が海に激突したんだ。

「すごい熱の爆風だ。まるで世界中の原子爆弾を一度に爆発させた

ような威力だぜ」

「まったくです。海水が蒸発して、吹き上げていますよ」

「地上では恐竜たちも植物も、すべての物が燃えているぜ。いやい

や、あれは燃えるというより、赤あかと溶けているという感じだぜ」

 千度をこす爆風によって、大火災を起こしたんだ。

 くる日もくる日も燃え続けたもんだから、ほとんどの恐竜が死ん

じゃった。

 はやい速い、時間の経過が速い。なん十年も経って、やっと火災
 
は消えたけれど、こんどは空が真っ暗になっちゃった。

「こりゃあ、まるで暗黒の日々だぜ」

「どうして、こうなったの」

「火災によるススや大量の水蒸気などが地球をおおっているからだ

ぜ。それが太陽光線をさえぎっているというわけだ」

「寒い、寒い。おお寒い」

「これは地球上が急速に寒冷化した証拠なんだぜ」

「だから、気温が氷点下三十度にまで下がったんですね」

「見ろよ、わずかに生き残った恐竜たちも死に絶えていくぜ」

「恐竜絶滅の謎はこれだったんですね」

「ふむ、惑星衝突説か。・・・まてよ、造山運動説もあったんじ

ゃないか。まあ、そうかもしれないし、ちがうかもしれないぜ」

「ぼく、有力な説だと思うんだけど。・・・・・しかし、長い間に

は想像を絶するような出来事が起ったかもしれませんね」

 ふたたび暗黒の日々が、なん年もなん年も続いたんだ。が、その

うちに雨が激しく降り出しちゃった。

「こりゃあ助かったぜ。この雨で大気中の物を洗い流してくれるぞ」

「これで、大陽が顔を出してくれますね」

 やがて、陽が照りはじめたんだ。

「ふーう暑いなあ。気温がどんどん上がってるぜ」

「これは五十度をこえていますよ」

「大気中には、まだまだ大量の水蒸気が残っているから、地球に太 

陽熱をとじこめてしまうんだぜ」

「ということは、温室の中に地球が入ってるようなもんですか」

「そうさ、温室効果ってやつだぜ。・・・ひえっ、かみなりだ」

「雨あめ降れふれ、かあさんがジャノメでおむかえ、うれしいな」

 歌っちゃった。(蛇の目)ジャノメは(傘)かさのこと。




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著者  さこ ゆういち       
第二話ちょっと冒険イッシー君