トップページ
千匹の子供たち
あんまり雨がふり続いたので、鉄砲水が起っちゃった。

「うわっ、大洪水だ」

「大丈夫か。イッシー号、しっかりせよ」

「あまりにも激流なので、エンジン不能です」

「しかたないな、流れにまかせようぜ」

 ぼくたちは、すごい勢いで流されたんだ。

「ああーもうだめだ。目がまわる。・・・ううん。・・・・・」

「あれっ、ここは、おいどんの生まれ故郷でごわんど」

 どうやら、速い時間の回転がゆっくりなり、現代に帰ってきたみ

たい。ふと気がつくと、おだやかな南の海がキラキラと光りかがや
 
いていたんだ。

「ピーピッピキピー。イルカ隊から連絡があったぜ」

「と、すると、イルカさんたちも無事だったんですね」

「そうらしいな。・・・・おい見ろ、イルカ隊がやってくるぜ」
  
「デブキチ隊長殿、イルカ隊はこれよりハワイ方面に向かいたいと

思います。ご許可ねがいます」

「うん、よか。許可する」

「イッシー君、さらばだ。デブキチ隊長殿、お達者で」

 あいさつして、イルカさんたちは旅立って行ったんだ。

「イッ、イッシー君、君は池田湖に帰っててくれ。おれは嫁さんを 

さがさなきゃならんのだ」

「えっ、ぼく一足先に帰るんですか」

「なにか不満でもあるのか」

 デブキチ親分は本当に勝手なんだよね・・・・・・・・・。

「はいはい、帰りますよーだ」

 というわけで、ぼくはもう池田湖に帰り着いているんだ。都合の 

いいことに、ほくがいるのを人間どもは忘れちゃったみたい。

「あんまり静かなもんだから、しばらくのんびり暮らしちゃったな」

 一ヵ月ほどで旅の疲れもとれちゃった。

「ただいま帰ったぜ。これがおれの嫁さんと子供たちだ。イッシー 

君、よろしくたのむぜ」

「うわー、これはこれは、なんとなんと。・・・・・いったい何匹

いるんですか」

「おれさまにも、よくわからん。まあーざっと千匹ってところか」 

 デブキチ親分は無責任なんだから・・・・・・・・・・。

 千匹ものシラスウナギ。まだまだ、あかちゃんなんだ。

「あらあら、いたずらなんかしちゃって、元気がいいですね」

「うんうん。・・・・・ふむふむ」

 デブキチ親分が父親らしく、まんぞくそうにうなずいたんだ。

「これが、おいどんの嫁はんでごわす」

「デブコといいます。イッシー君、仲良くしましょうね」

「はい、よろしくお願いします。・・・・でも、なんでデブコって
 
名前なの」

「そんなことどうでもいいじゃないか。・・・ん、そうだ。デブコ 

はこのおれ、デブキチ親分さまの嫁さんだから、イッシー君にはデ 

ブコあねさんと呼んでもらうぜ」

 またまた、いばっちゃって。・・・いやだねーっと。

 あかちゃんウナギがうじゃうじゃ増えたので、そりゃもうーにぎ 

やかなんだよ。

「五十六号と九百九十九号がいなくなっちゃったぜ。イッシー君、 

さがしてきてくれ」

 あかちゃんたちには番号の名前がつけられたんだ。いずれはデブ

一、デブ二、デコ三、デコ四とオスメスに分けて呼ばせるそうだ。 

「さがせばいいんでしょう。まったくどこに行ったのかな」

 子守なんかさせられて、ぼくは暮らしているんだ。やんちゃなの 

はいいけど、なかには冒険ずきな坊主がいて困るんだよ。

「やあっ、いたいた。・・・あれっ、こんなところに地下道がある 

ぞ。デブキチ親分に報告したら、ただちに探険だ」

 どうやら古い溶岩ドームらしい。

「おれも行くぜ。デブコ、留守をたのむぞ」

 デブキチ親分も子守に飽きたんだろう。地下道をぬけると、すぐ

目の前に霧島が見えたんだ。どうも御池に出たらしい。

「モエビがいっぱい泳いでる」

 ここ御池(みいけ)も火口湖なんだ。

「うひゃーっ、あれはどうやら原始人らしいぜ」

 毛皮なんか着ちゃって、石器で作った槍を手に、狩りをしている

んだよ。

「テブキチ親分、どうなっちゃったんですか」

「さあー、おれさまにもよくわからねぇ。・・・・ふむ、あの地下

道が原因じゃないのか。どうもそうらしいぜ」

「と、いうことは石器時代にきちゃったというわけ。またまた冒険

の始まりですね」

「その頃、御池はまだ爆発していたはずだ。湖になってるなんて、

矛盾してるぜ。それをどう説明するんだ。イッシー君、説明せよ」

「うわー難題をふっかけられちゃったな。ううーん、ううーん」  

「うなってばかりいたんじゃどうしようもないぜ」

 デブキチ親分はせっかちなんだから・・・・・・・・・・。 

「ちょっと考えさせてよね」

「ヘボの考え休みに似たりだぜ。ふん」

「もう、バカにしちゃって。だけど今は説明できないから、しかた

がないか。・・・・ええっと宿題しゅくだい、宿題っと」



 第二話ちょっと冒険イッシー君 おわり。


 あ と が き

 今からおよそ四十六億年前、無数の天体が衝突して地球が誕生し

たといわれています。そして、生命体の出現が三十五億年前。これ

は単細胞で光合成をする、ごく小さな生物。しかし、かれらは酸素

を放出し、地球の大気を変えていきました。

 やがて、十七億年前ごろ、その酸素を呼吸する初めての生物が現

れてきます。これらの中から五億九千万年前ごろになると、海生生

物に。さらに時を経て魚類に。さらにさらに両生類に。さあー進化

論のはじまりです。新しい化石、新しい遺物の発見によって、それ

までの説が変わることもあります。また、まだまだ解らないことが

沢山あり、興味津々。このことから、この物語が「S F」的になっ

たのかもしれませんね。   2002年2月1日  作者より。




 ツールバーの戻るボタンをクリックしてね。
著者  さこ ゆういち       
第二話ちょっと冒険イッシー君