風間伸介(かざま しんすけ)が交通事故による脊髄損傷で下半身の自由を奪われて、

もうかれこれ一年半ほどになる。バイクに乗っていて暴走し、対向車に激突したのだか

ら、風間の一人相撲といってよかった。助かったのが不思議なぐらいであった。

「はいフロッピー。あらっ伸介たら、にこやかな顔をして何かいいことでもあったの」

 姉の美智代が、いたずらぽい視線を向けた。今でこそ陽気に振る舞っているが、一時は

どんなに心配したことか。事故当時、弟は多感な歳ごろで悲観的になったり、失意のうち
  
に死を仄めかし、あたり散らしてきたのだ。

「そうさ、彼女ができた。とびっきりの美人。姉さんとは桁違いの差だぜ」

 風間はパソコンの横にフロッピーを置いて、電動車イスに腰掛けたまま顔を振り向ける

と、にやりとしてみせた。いくら悔やんだり、悩んだんしても元の身体には戻りようがな
   
い。一生車イス生活である。ならばと考えぬいた風間は最近ようやくふっきれたようだ。

「まあっ、伸介たらこんなに美人の姉さんに向かってなんてことを。で、どんな方なの」 

 キッとにらんだ目元をやわらげて、美智代は軽く小首をかしげた。

「冗談じょうだん。本当のところは岡田教授。K大学工学部でロボットの研究をしておら

れる工学博士のことさ」

 パソコンの画面にはメッセージらしき文字が映っているが、風間はそれを指さすと、振

り向いてウインクをパチリとやった。高校では情報処理を学んでいたのである。

「なあんだ。そんなことだったの。でも何か嬉しいことがあったみたいね」

 いつもと違って今日の弟は妙に浮き浮きしているようだ。美智代はそんな弟の肩に両手

をそっと置いて、かがみ込むようにしてメッセージを読みはじめた。

 風間は三週間前に病院から身体障害者施設【南光苑】に移ってきた。入所者の定員は五

十名で個室と二人部屋がある。彼はむろん個室を希望し、入所した。ここでは在宅障害者
  
のデイサービス事業も行なわれている。建設されて半年も経っていない真新しい施設だ。

「移動は電動車椅子だから、比較的に自由だ。問題はトイレの便器に車椅子から移る時な

んだ。ひとりでやっている事はやっているが、かなりの苦痛を伴う。それで岡田博士に相

談してみたんだ」

 電動車椅子の操作ピンを指先で右に軽く押して、風間は右方向にくるりと向きを変えた。

見上げると、正面に目鼻だちの整った姉の涼しい顔がほほえんでいた。

「そう、これがその返事なのね。一緒に考案してみましょうと書いてあるわ」

「介護ロボットの研究もされているらしい。病院などでは一部だけど導入されているとい

う話だった。でもまだ一般的ではないらしい」

「ううん、今の技術力からすれば、簡単に作れそうなものなのにね」

「そう考えるのが姉さんの浅はかなところなんだ。確かに理論的には出揃っているらしい。

でも学問分野が専門的に細分化し、工学だけでも一万に近い専門領域があるということだ

った。そうした専門家が集まればロボットを設計できると思うだろう。ところが逆なんだ

そうだ。非常に細分化された知識体系が専門家間の共働を難しくしているらしい」

「なんだか複雑な話になったわね。わたしには理解できない」

「もっともこれは鉄腕アトムのような知能ロボットの話で、おれのは電動車椅子に改良を

加え、トイレの入り口までは手動。で、そこから先は誘導システムにして、便器への移動

を腰掛けたまま自動化できないかということさ」

「岡田博士はなんておっしゃったの」

「来週の土曜日に来てくださるそうだ。それからロボットに関する資料をこちらのパソコ

ンに送信してもらった。いま読でいるところだけど、これがなかなか面白い」

「ははん、それで浮き浮きしていたってわけね。伸介はわりかし単純だもんね」

「こらこら、美智代姉御そんないい方はよくないぜ」

「ああら失礼。・・・・・でもよかったじゃない」

 両手を少しあげて広げ、顔をすくめて美智代がふふっと笑い声をあげた。あと僅かで風

間は二十歳になる。この三歳上の姉は小学校の教師であるが、こんな調子で子供たちの教

育がよくできるものだ、と風間は時々思うことがある。

「どうしても便器に移るのが困難な時は介護福祉士の資格を持った職員の方に手伝っても

らえばいいわけだけど、できるかぎり自分のことは自分でしたい。まあ他の事では寮母さ

んもいるし、体調が悪ければ看護婦さん、機能回復訓練は理学療法士さんというように、

お世話になっているけれど」

「困った時は生活指導員の方に相談すればいいし、栄養士や調理員の方がいて食事の心配

はいらないしね。けっこうバラエティーに富んだ料理が出ているみたいじゃないの」

「まあーね。それはそうと完成した時の名前を介護ロボットコンピュータという意味で、

ロボコンというのにしたいと思うんだ」

「かたい感じの名前だこと。どうせならウザエモンとか。・・クロベェとかユニークな方

がいいと思うけど。うっふっふ、やっぱり単細胞の伸介が考えそうな。・・・」

「またまた、すぐけなす」

 ぷいっと、ほほを膨らませてにらんだ風間の顔を無視したように、ケロッとした顔で美

智代はずっこけたような仕草をしてみせた。意外に、こうしたひょうきんなところが子供

たちに受け入れられているのかもしれない。

「おこんない怒んない。で、なん時ごろ来てくださるのかしら」

「確か午前中の十時ごろの予定だったかな」

「わたしも同席させて頂こうかしら。・・・・・・・・あっ、弟がお世話になります」

 寮母の西岡さんが顔をのぞかせたのを見て、美智代がほほえんで頭をさげた。

「あら、こんにちわ。お姉さんいらしてたのね。風間さん、そろそろ昼食の時間ですよ」

 にこやかな笑みをたたえた西岡さんもぺこんと頭をさげた。西岡さんは部屋の入口から

声をかけると、いそがしそうに駆けて行く。その後ろ姿を見送って、美智代が振り向きな

がら問いかけてきた。

「伸介、仕事の方はうまくいってるの」

「うん、まあまあね。小遣い程度には稼いでいるよ」

 風間は胸をそらせて、右手の親指と薬指を擦り合わせパチンと鳴らした。福祉機器の販

売会社から委託されての通信販売だ。インターネットを通して購入者の紹介をする仕事で

ある。パソコンに送られてくる機器の画像や使い方、特徴、販売価格などのデータを保存

するフロッピーがいる。それを姉に買ってきてもらったのだ。

「普及品もだけど、新製品のデータが順次に入ってくるみたいね。伸介、ご馳走がまって

るわよ。・・・・・・わたし帰る。じゃあね」

 入口までつつっと歩み寄った美智代は振り向きざまに右手を振ると、さっさと帰ってい

く。風間が操作ピンを前に押すと、二つのバッテリーを搭載した電動車椅子は前方に動き

出した。風間は操作ピンを右手の指で巧みに操って大広間に向った。入所者もデイサービ

ス利用者もそこに会して食事をする。大広間は多目的に使われる空間だ。

 このところ風間は憂鬱だった。秋雨前線が停滞しているとかで、まったく鬱陶しいかぎ

りである。これで台風でもくればまた大雨の被害が出るだろう。しかし、幸いなことに仕

事の依頼が一件入り、それを処理している内に風間の憂鬱さは吹き飛んでしまった。

 今日は土曜日である。雨も夜明けと共にあがり、青空が広がっている。【南光苑】は高

台にあり、周辺は畑だらけで所々に林も点在する。ベランダ越しに望むと、いつもは霞ん

でいる山々が緑に映えて、ぐっと迫って見えた。

 九時半ごろ山下和子がやってきた。風間の友人の妹で、確か二つ年下になるはずだ。こ

の春高校を卒業して父親の経営する山下モータースを兄和夫と共に手伝っている。丸顔で

ぽっちゃりとした容貌だが、目元に愛嬌を感じさせ、理知的なイメージを漂わせていた。
 
「お兄ちゃんがこれを伸介さんに届けてくれって」

 和子は釣りの月刊誌を手渡しながら、にっこりと笑顔を見せた。(父も兄も伸介さんも

揃いもそろって、まったくの釣りキチなんだから)と、あきれたような笑顔だ。

「やあーどうもどうも。ところで御和坊(おかずぼう)のお父さん何か言ってなかったか

い。中古のバイクのリストを作るからって言ってたけれど」

 かって、風間は和子に淡い恋心を抱いたこともある。幼い初恋といっていい。さりとて

事故に遭って以来、妹のような存在になりつつも、なお心惹かれるものを感じてしまう。

まあ複雑な心境といってよかろう。風間はそんな内心をふりはらうかのように頭を振った。

「いえ、なにも聞いてないわ」

 和子はちらっと宙に目を泳がせると、ふたたび風間の顔に視線を戻し、まばたきをした。

なんとも可愛い仕草である。兄の和夫とは同級生であり、ましてバイクに興味を持ってい

た風間が山下モータースに出入りしていたのは、ごく当然の成り行きといえた。

「中古車の在庫がだいぶあるらしいね。だから通信販売をしてくれってさ」

 事故を起こした時のバイクも和子の父和広が格安で譲ってくれたものである。和子があ

きれたように三人して釣りによく出かけたものだ。そんな仲で責任を感じたわけでもある

まいが、風間に福祉機器の販売会社を紹介したのは山下和広だった。

「伸介さんが電動モータカーをよく売ってくれるので、父も喜んでいたわよ」

 電動モータカーと呼んではいるが、風間が乗っている電動車椅子と似たようなもので、

三輪車と四輪車が出回っている。一般向けではあるが、やはり福祉機器の部類に入るだろ

う。和子の声を聴きながら風間はパソコンの方に向きを変えた。と、どうしたことか和子 

は風間の肩をポンポンと叩いた。あまりにもいきなりだったので風間はびっくりした。こ

んどは揉んでくれる。いい気持だ。(御和坊、気があるのかな)と、ついついよけいな考
  
えがよぎってしまう。そんな恋情を見透かれそうで風間は眉根を寄せて苦い顔をした。

「あらっ、かずちゃん来てくれたのね。伸介うれしいでしょう。よかったわね」

 入口から不意に美智代が声をかけてきた。(まったくもう、この姉御、よけいなことを

いいやがって)風間にはちょっと挑発するような声音に聞こえてしまう。

「あっ、おねえさん、お邪魔してます」

「伸介、そろそろ岡田博士がみえるころじゃない。玄関でお待ちしましょう。さあ」 

 風間と和子をせきたてるように手招きして催促すると、美智代は入口から二、三歩後退

した。和子と美智代を従えて、風間は電動車椅子を玄関に向けて操作した。やがて玄関先

が見えてきた。間もなく門から車が入ってきて、玄関横で停車した。

「岡田博士はじめまして。わたくし風間の姉ですけれど、今日は弟が無理なお願いを致し

ましたようで、誠に申しわけなく思っております」

 車から降り立った老紳士に駆け寄って、美智代は丁寧に腰を折って深々と頭をさげた。

K大から五十キロほどの道程をきてくれたのである。後方で風間と和子も頭をさげた。

「いやいや、とんでもない。さあさあお顔をおあげ下さい。これはうちの学部の青山君と

いいます。手伝ってもらおうと思いましてな」

 岡田博士はすらっとした体型である。老齢さなど感じさせない艶やかな顔で隣の若者を

紹介した。わりかし気さくな性分のようだ。これまたすらっとした容貌の青山は無言でぺ

こんと頭をさげた。学生であろうことはその風貌から容易に判断できた。

「岡田博士、こちらは友人の妹で御和坊、じゃなかった山下和子さんです」

 あわて気味に風間はいいかえて、てれたように右手で頭を掻いた。

「やあ、お若いですな。ところで風間君ちょっとこれ動かして見せてくれんかね」

 岡田博士は右手をあげて、庭園の方を指さした。庭園といってもグランドゴルフができ

るほどの広さがあるのだ。風間は電動車椅子を動かして、ぐるりと大きく回り込んでみせ

た。岡田博士は戻ってきた風間のすぐ側にかがみ込んで、電動車椅子の点検をはじめた。

「岡田博士、なんとかできそうですか」

「いくらか問題点もあるが、なんとか設計してみよう。青山君、計ってくれたまえ」

 風間の問いに返事して、岡田博士は青山の顔を見上げて指図した。そしておもむろに立

ちあがり、理念に満ちたような顔で言葉を続けた。

「施設の了解は得ているから青山君、車椅子の寸法を計ったら、こんどはトイレの所だ。

それからええっと風間君、体重はどれくらいあるのかね」

「はあ体重ですか、五十二、三キロです。・・・・・ええっと、あのう自分なりにパソコ

ンを使って台座の動かし方といいますか、便器への移動方法を描いてみたのですが」

 風間は声が上擦るのを抑えながら答えた。美智代も和子も興味津々といった顔つきで、

風間と岡田博士の顔を交互に見つめている。青山が計り終えたようだ。

「ほほう、そりゃいいね。パソコンをぜひ拝見させてくれたまえ。お姉さん、青山君をト

イレまで案内してもらいたいのだが」

「はい、わかりました。こちらです。どうぞ」

 美智代と青山が去っていく。岡田博士を伴って、和子たちは風間の部屋に移動した。パ

ソコンの画像を見入ったとたん、岡田博士は顔を上下させて頻りにうなずいて見せた。

「なるほど、これはいいアイディアだ。まず台座の部分だけが上にあがり、と同時に臀部

の底も一部ぬけて穴が開くというわけだね。次に補助車のついた支え棒によって後方に台

座だけが移動し、便器の上に到達する。ううむ、しかもズボンの方にも工夫がしてあって

台座がもちあがる時に開く仕掛けになっている。・・・・・あうん、これは失礼した」

 画面から顔をあげた岡田博士は顔をあからめている和子にようやく気づき、眼を白黒さ

せた。和子は言葉が出ないようだ。うつむいたままである。

「御和坊、そんなに恥ずかしがることなんて何もないと思うんだが」

 笑って風間がたしなめると、和子は頬をふくらませてプイとそっぽをむいた。

「レディーに対する配慮がなかすぎたか。すまんすまん、わっはっはっはっはー」

 言葉とは裏腹に岡田博士は声をあげて笑った。つられたわけでもあるまいが、思わず和

子がウフッと笑い声を吹き出した。風間も笑った。いぶかしそうな顔をして美智代が部屋 

に入ってきた。四、五歩あとから青山もやってくる。      

「なにか愉快なことでもありましたか」

「いや、ちとその・・うっふふふ・・青山君これを見てくれたまえ。はっはははー」

 美智代の問いに言葉をにごし、岡田博士はパソコンを指さして再び笑い声をあげた。

「先生これはなかなかの着想と。いや発想がいいですね。うふっ・・・それに宇宙服みた

いな、なんというか実にいいですね。はっはははー・・・・ぜひ完成させたいものです」

「いやはや風間君は想像力が豊なんだね。青山君ひとつこれで考えてみようじゃないか。

風間君これからもいいアイディアが浮かんだら、うちのパソコンに送信しておいてくれた

まえ。各部の設計図ができるごとに、こちらからもデータを送ってあげるからね」

「岡田博士ありがとうございます。でも秘密になさらなくてもよろしいのでしょうか」

 なにが可笑しかったのか意味不明のまま美智代は礼をいって、著作権のことを問った。

「なあに、これは研究テーマのひとつでもあるし、風間君の発想から作ることでもあるわ

けです。ですから費用についても心配には及びません。それに、そんなことはないと思い

ますが、もし製品化できた場合でも著作権は風間君に還元しますよ。・・・・・さてと、

いちおう電話でアポイントメントをとってあるから青山君、施設の方に挨拶して帰るとす

るか。・・・・あっ、いや見送らなくっても結構ですぞ」

 風間や和子、美智代が身じろぎしたので、岡田博士は右手をあげて制止した。あまり長

居する気はないらしい。青山と同じようにピョコンとお辞儀した岡田博士は、くるりと背

を見せて部屋から出て行こうとした。その背中に向けて、風間はズバッと呼びかけた。

「あっ、あのう岡田博士」

 さすがに意表を衝かれたらしい。ギクッと立ち止まった岡田博士は『ん?』と首だけひ

ねって次の言葉を待つ姿勢になった。

「完成したときは介護ロボットコンピュータの略称でロボコンと名付けたいのですが」

「うん、いいねえ。まあそういうことで」

 軽く了解した岡田博士は青山を従えて、颯爽と歩き去っていく。視界から姿が消えたの

だろう。美智代と共に振り返った和子はホッとしたのか、顔をほころばせて風間に視線を

当ててきた。あまり化粧っ気を感じさせないので、かえって笑窪が愛らしく映るのかもし

れない。風間は胸が一瞬ドキンと鳴り、つい見惚れてしまった。

「伸介さん、父さんと兄さん明日釣りにいくそうよ。漁港の防波堤釣りだから一緒にどう

かって。・・・・・・・わたしには留守番してろっていうの」

 仕方がないと唇を尖らせたところを観ると、和子は内心そのことに未練があるようだ。

「ぎゃあーおーう、いくいく。・・・・・そうだ姉御、施設の外出許可を受けてくれ」

 風間は子供のように歓声をあげた。外出するには身の安全を保障してくれる付き添いが

いるのだ。環境さえ整っていれば風間は自立できるかもしれないが、警察官だった父親は

彼が中学二年の時に急逝していた。夜間の検問中の事故死だった。職務上での死亡だから

経済的にはなんの心配もなかった。ただ母親が病弱な体質でもあり、風間の入浴などの手

助けが困難である。一見、簡単そうに思えるちょっとした介護でも実際やってみると、け

っこう難しいのだろう。おまけに、美智代には婚約者がいて来春結婚式をあげることにな

っていた。こうした事情を考慮すれば風間の入所は拒否でき得ないことであった。

「伸介、よかったわね。ついでだから夜は家に帰ってきて一泊したらどう、きっとお母さ

ん喜ぶわよ。信雄さんもおよびしてご馳走しましょう。そうだわ、かずちゃんもどう。お

父さんやお兄さんと一緒にどうかしら」

 ふと婚約者の名が飛び出したので、美智代は少し顔をあからめたようだ。それを誤魔化 

すかのように言い添えて、和子の顔をまじまじと見つめた。

「わあー嬉しい」

 とたんに和子の顔がバアーッと明るく輝いて見えた。二年前にガンで母を失って以来、 

けなげにも父や兄の世話を何くれとなくやいてきた。まあ主婦的な役割を担ってきたとい

っていい。ふだんは明るく振る舞っているものの、やはり一抹の淋しさがあるのだろう。

 翌朝も快晴であった。

 大勢の入所者と共に風間が大広間のテーブルに着くと、すぐに朝食が運ばれてきた。う

まそうな味噌汁の香りと焼き魚の匂いが食欲を誘うように漂った。

「いただきます。・・・・やっぱり朝食はパンよりこれにかぎる」

 そうつぶやきながら風間はアジの焦げ目に醤油をかけて早速ごはんに箸をつけた。

 食後、風間は釣り竿を持って庭園に出た。広々と敷きしめられた芝生の上の一角で、の

んびりと竿を伸ばし、振ってみた。調子を確かめているというよりも、遊んでいるような

感覚だ。その時、通りかかった職員が笑顔で声をかけてきた。





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著者  さこ ゆういち       
第一章 苦悩
小説 介護ロボコン