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囲碁の雑学 百人一首と、もじり棋歌
 囲碁には数千年の歴史があるといわれています。中国では「囲碁四千年」という言葉も
あります。が、確たる事ではないようです。でも、それほど古い歴史があるのも不定できな
い事実です。では誰が囲碁というゲームを発明したんでしょうか。太古の事なので、うふっ、
神様かな。まあー碁盤と碁石は占いや天文、数学などの教材として作られたという説もあり
ます。

 囲碁で古代ロマンというと「爛柯伝説」もあります。爛柯「らんか」の爛は腐る。柯は斧
の柄。という意味です。下記は「述異記」に書かれている伝説です。
【ある時、王質という樵が山中で、四人の童子が碁を囲んでいるのを眺めているうちに、時
の経つのも忘れ、気が付くと持っていた斧の柄がすっかり腐り果てていました。驚いて家に帰
ると、人々はみんな死んでいなくなっていた。】それほど碁に魅せられていた。と、いうこと
ですね。これは碁の浦島太郎といったところかな。

 爛柯伝説で打っていた童子は亀仙人と鶴仙人、猿仙人、狸仙人、あるいはイタチ仙人もい
たかも知れません。そういえる論証はちゃんとあるんです。先ず囲碁の格言の中に「亀の甲
60目」というのがありますし、名の付いた手筋には「鶴の巣ごもり」とか「猿すべり」「狸の
腹鼓」「イタチの腹付け」と、いうのがあります。これらが論証といえますからね。

 平安時代の清少納言と紫式部の二人の女性は囲碁の有段者???だったらしいです。【枕草
子】と【源氏物語】には、そそれぞれ囲碁に関する描写が多く出てきますが、囲碁用語や術
語の使い方が当を得ていて絶妙だからです。
【源氏物語絵巻】を見た事はないでしょうか?これには、豪華な美しい着物を身につけた髪の
長い二人の女性が碁を打っている場面が描かれています。源氏物語絵巻の竹河(二)の場
面は記念切手にもなっています。

 古今和歌集には碁に関する下記の句がありますので紹介します。
つくしに侍ける時に、まかりかよひつつ碁うちける人のもとに、京にかへりまうできて、つかは
しける


 百人一首とそのもじり棋歌を紹介します。

【1番】秋の田のかりほの庵のとまをあらみ わが衣手は露にぬれつつ「天智天皇」
  敵の手さぐりの石のさをにらみ わがみぎの手は棋笥にふれつつ 
「棋笥」は「碁笥」「ごけ」のことで碁石を入れる器です。

【2番】春すぎて夏きにけらし白妙の 衣干てふ天のかぐ山「持統天皇」
  程すぎて待ったもいへずうろたへの こころぼそてふあたまかくやま 
この句の心情は碁を打つ者にとって、大いに共感されるところかな。

【3番】足曳の山鳥の尾のしだり尾の 長々し夜を獨りかもねむ「柿本人麻呂」
  駆け引きの石取りの手のさぐり手の はらはらしさをひとり黙然 

【4番】田子の浦にうち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に雪はふりつつ「山辺赤人」
  盤のうへにのび出て見れば死に石の ふしぎや持つごまかされつつ
碁盤の上に身を乗り出す。これはよく見る情景ですね。

【5番】奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 聲きくときぞ秋はかなしき「猿丸大夫」
  人の地に無理に取りかけゆく石の とらるる時ぞわれは悲しき
「取ろう、取ろうは取られの元」取られて我は悲しいですね。

【6番】鵲の渡せる橋におく霜の 白きを見れば夜ぞ更けにける「中納言家持」
  角番の負けたるために涌く胸の つらきを見れば手ぞふるへける
手の震えは置き石が増える悔しさ。その気持はよく解りますね。

【7番】天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも「阿部仲麻呂」
  敵の腹割り裂き見ればおろかなる すみすみ山に打ちし筋かも
腹を斬り裂さかなくても、その愚かさは心眼で判るかもね。

【8番】わが庵は都のたつみしかぞすむ 世をうぢ山と人はいふなり「喜撰法師」
  わが腕は都の仕込みこころ澄む 棋を打ちますと人はいふなり
これはまた随分と腕自慢をしていますね。しかし、「こころ澄む」と、いうのがいいですね。

【9番】花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに「小野小町」
  顔の色はかはりにけりな打つほどに わすれて死ぬる石を見し間に
これはもう夢中になって打っている感じですね。

【10番】是れやこの行くもかへるも別れては 知るもしらぬも逢坂の關「蝉丸」
  あれやこの死ぬも活きるも缺かれては 打つもうたぬもおほかたは持
「缺かれては」欠け落とされてはだから、盤上にある石を弾き飛ばして、落としてしまった。
と、いうことかな??だから、打つも打たぬも拾って手に持つ???うーん、これは解釈が難しい。

【11番】和田のはら八十島かけてこぎ出でぬと 人にはつげよあまの釣舟「参議小野篁」
  敵の腹桂馬をかけてつきとめぬと 覗きはつげよあとを思ひね
ケイマで包囲して相手の出方を窺うと、覗いてきたので一端ついで、その後のことを考える。
と、いうことかな。
 
【12番】天津風雲の通路ふきとじよ をとめの姿しばしとどめむ「僧正遍昭」
  まごつかせ敵の逃げ道おとしめよ 勝棋の姿しばしながめむ
攪乱戦法で敵の退路を断ち、勝ち碁に導いたので惚れ惚れと盤上を眺めた。と、いうことかな。

【13番】筑波嶺のみねより落つるみなの川 戀ぞつもりて淵となりぬる「陽成院」
  打つ石のそばより切れるものとかは 誰れぞをしへて愚痴となりぬる
どのように打っても石が切れるのは如何ともしがたい。で、誰もかれもが愚痴をこぼす。
これは実感がこもっていますね。石の連係がうまくいかず、ついつい愚痴ってしまうんです。

【14番】陸奥のしのぶもぢずり誰故に 亂れそめにし我ならなくに「河原左大臣」
  打つ癖のきのふ見しよりそれがゆゑに 打たれ取られし石ならなくに
筋の悪い手を打ってしまう癖があるので、いつも石をが取られる。大人になってからの癖は
なかなか直らない。と、いうことかな。

【15番】君がためはるの野に出でて若菜つむ わが衣手に雪はふりつつ「光孝天皇」
  君がため垂木に乗り出て棋を囲む わが思ふ手にわこはのりつつ
【垂木は当て字です】=【縁の糸が木へんのテンという字】で【棟から軒に渡した材木の
こと】たぶん【これは縁台のことでしょう】幼子が邪魔をするので縁台に身を乗り出して碁を
打つ。と、いうことかな。うふっ、頬笑ましい光景ですね。

【16番】立別れいなばの山の峰に生ふる まつとしきかば今かへりこむ「中納言行平」
  勝ちわかれ籠根の外の影に吠ゆる 犬とし聞かばいまかへりこむ
碁に勝ったので、籠に乗って帰ってきたが、途中で犬に吠えられた。と、いうことかな。

【17番】千早振る神代もきかず龍田川 から紅に水くくるとは「在原業平朝臣」
  力振るかけ手もきかず化の皮 わづかのうちに首くくるとは
強引な手を打ってきても、相手の化けの皮【力量】は剥がれているので、すぐ自滅するで
はないか。と、いったところかな。

【18番】住の江の岸による波よるさへや 夢の通ひ路人めよくらむ「藤原敏行朝臣」
  君の手の奥にたくらみ取るすべや 夢も忘れじこころおらむ
君の打つ手の奥に潜む陰謀は夢々忘れぬぞ。と、いったところかな。

【19番】難波がた短き蘆のふしの間も 逢はで此世をすぐしてよとや「伊勢」
  思ふ方みじかき冬の暮れの間も 打たでその日を過ごしてよとや
冬の日は短くて暮れるのも早いけれども、あなたと碁を打たないで過ごせというのですか。
と、いうことかな。

【20番】侘ぬれば今はた同じなにはなる みをつくしてもあはむとぞ思ふ「元良親王」
  まちぬれば今方見えし敵なる 夜をとほしても打たんとぞ思ふ
うふっ、これはその通りですね。

【21番】今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待出でつるかな「素性法師」
  いざこいと打ちしばかりに留めおきの ありたけの酒を飲まれけるかな
あっはっはーこれはまるで【ゆうちゃん】の事をいっているようですね。

【22番】吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風を嵐と云ふらむ「文屋康秀」
  ふくからに彼の打つ手の裏かけば うべ山師手をあやしといふらむ
打たれた手を見て、その意図する裏をかけば、相手は「なんだか怪しい」と、いって
考え込んだ。と、いったところかな。

【23番】月見れば千々に物こそ悲しけれ わが身一つの秋にはあらねど「大江千里」
  敵見ればとみに胸こそ躍りけれ こたびは白の番にはあらねど
この相手は胸がわくわくするぐらいの好敵手なのでしょう。今回も白番というわけでは
ないけれど。と、いっているところを見ると勝ったり負けたりする相手なんでしょうね。

【24番】此の度はぬさも取あへず手向山 紅葉のにしき神のまにまに「菅家」
  この度は石もとりあへずこけの山 思へばおしき口のまにまに
今回は盤石も持たず、こけの山にきてしまったので碁が打てない。ああー残念だな。
かな。これは解釈が難しいですね。

【25番】名にしおはば逢坂山のさねかづら 人に知られでくるよしもがな「三条右大臣」
  控へをらば とりかへす手のありながら 敵につられて 勝つよしもがな 
この句は「時間をかけて、よく見て考えれば、いい手があったのに、敵の打つテンポに
つられて打ってしまったので、勝てるはずがない」と、嘆いているんです。似たような事は
実際にもよくあるんです。ゆっくりしたテンポで打っていた敵が大事な局面になった時、バ
タバタ、バタっとその時だけ素早く打つので、ついつられて悪手を打ってしまうんです。

【26番】小倉山峰のもみぢ葉心あらば 今一度のみゆきまたなむ「貞信公」
  時は今かくして打たば打ち込まば いまひと時の相手またなむ
さて、もう一局打ちませんか。今度も勝って打ち込みますからね。今しばらくの相手をして
くれませんか。と、いうことかな。もしそうだとすれば、ずいぶんと横着な頼み方ですね。

【27番】みかの原わきてながるるいづみ川 いつみきとてか戀しかるらむ「中納言兼輔」
  敵の腹割って見らるる化けの皮 いつも来る手かをかしかるらん
敵の企み魂胆はとうに化けの皮が剥がれているのに、どうしていつものような打ち方しか
できないのだろう。と、いうことかな。

【28番】山里は冬ぞ寂しさまさりける 人めも草もかれぬと思へば「源宗于朝臣」
  こすみとは智恵のさもしさわかりける 桂馬も押しも出来ぬと思へば
ケイマやオシの手もあるのに、コスミを打つとは智恵の浅さが解るというものだ。と、いう
ことかな。これは碁の手の技巧的なことをいっているのです。

【29番】心あてにをらばやをらむはつしもの 置きまどはせる白菊の花「凡河内躬恒」
  ちからあてに切らばや切らぬ初顔の 気をまどはせるはね出しの端
初めて打つ相手なので、用心して力まかせに切らなかったが、ハネ出してみてビックリさ
せようか。と、いうことかな。これは相手の意表を突く心理作戦のようですね。

【30番】有明のつれなく見えし別れより 暁ばかりうきものはなし「壬生忠岑」
  うちかけの勝ちなく見えし分かれより 打ち継ぐばかり憂きものはなし
どうあがいても負けの碁を打ちかけにしたが、打っていれば憂鬱だろうな。と、いったと
ころかな。もしそうであれば打ちかけにしないで、潔く負ければいいのにね。

【31番】朝ぼらけ有明の月と見るまでに よしのの里に降れる白雪「坂上是則」
  朝ねぼけわが運の尽きと見るまでに よべの徹夜にあたまものうき
昨夜から徹夜で碁を打ったので、朝ねぼけてしまった。ああ頭が朦朧としている。こんな
ことでは我が運も尽きたかな。てな感じでしょうか。

【32番】山川に風のかけたる柵は 流れもあへぬ紅葉なりけり「春道列樹」
  山師碁に賭物をかけたるいきさつは よすによされぬ涙なりけり
この句の意味するところは、おれの方が強いから賭碁を打ちたくないのだろう。と、挑発
されて引っ込みがつかなくなった。で、実際にもよくある事かもね。と、いうことで山師も
賭物をかけざるを得なかったんでしょう。

【33番】久方の光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ「紀友則」
  おほかたの打手の強きその中に 恥づ色もなくわれのをるらむ
この人物は碁が相当弱かったんでょうね。しかし、なかなか偉いじゃないですか。大半が
強い打ち手ばかりの中に、堂々として居られるんですからね。「恥づ色もなく」これは大
いに見習うべきだ。と、思いますね。

【34番】誰をかもしる人にせむ高砂の 松も昔の友ならなくに「藤原興風」
  たれをかも知る人にせん棋仲間の 誰も昔の友ならなくに
囲碁が打てると、友達が増えるというか、知人が増えるという利点があります。一局打っ
ただけで直ぐに親しくなったりしますからね。まさに囲碁が手談といわれる由縁かもね。

【35番】人はいさ心もしらずふるさとは 花ぞ昔の香に匂ひける「紀貫之」
  あとはいざ勝負もつかず立去るは これぞ負棋の習ひなりける
まだ勝負も分からないのに、打ちかけのまま帰るとは負け碁の見本。卑怯者め。と、い
ったところかな。あはっ、勝負の途中で碁敵が帰ったので、罵っているようですね。

【36番】夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月やどるらむ「清原深養父」
  負けの棋はまだ半ながら投げぬるを はたの人だに惜しと見るらむ
負けの碁はまだ途中だが、投了したのを観戦者は惜しいという。と、いったところかな。
この人物はサバサバしていて潔いところがいいですね。

【37番】白露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける「文屋朝康」
  白石に黒のはげしくせまる手は しのぎもつかぬさまぞ見えける
白石の弱点を巧みに黒が衝いてくるので、守りきれないように見える。と、いったところ
かな。【しのぎ】は【致命傷を食わない」ように懐深く受け止めるべきかもね。

【38番】忘らるる身をば思はずちかひてし 人の命のをしくもあるかな「右近」
  かすらるる手をば 気づかずくだしてし 石のいのちの惜しくもあるかな
これも碁打ちの心情をよく表現した句です。かすめ取られるのに気がつかず、打ってしま
ってから、すぐに気づいたが、死なした石の命が惜しかったな。あるいは石の命が哀れ
に思われる。と、いう事かな。

【39番】浅ぢふのをのの篠原しのぶれど あまりてなどか人の戀しき「参議等」
  あさ智恵の敵の黒腹見破れど 何のゑにしか彼れの恋しき
あはっ、この句は碁打ちの悲しさですね。碁敵の腹黒い魂胆は判っているが、どうしても
彼と打ちたくなるのは、何故なんだろう。憎んでも憎みきれないところに悲しさがあるん
ですね。

【40番】忍ぶれど色に出でにけりわが戀は 物や思ふと人の問ふまで「平兼盛」
  しのぶれど顔にでにけりわが胸は 勝ちや思ふとはたのいふまで
勝ち碁を意識しての嬉しさは、一応隠してはいるけれども、ついつい笑みが顔に出てしま
うので観戦者にからかわれてしまった。と、いうことかな。

【41番】戀すてふわが名はまだきたちにけり 人知れずこそ思ひそめしか「壬生忠見」
  だますてふその手はばれてしまひけり くるしみてこそ打ちし手なるが
だまそうと思って打ったのに、ばれてしまったので、苦しみながら打たないといけなくなっ
た。と、いうことかな。これを見ても判るように、あはっ、邪心は禁物。あるべき道「正道」
を行かないとね。

【42番】契りきなかたみに袖をしぼりつつ すゑの松山波こさじとは「清原元輔」
  打ちてきなありたけ脳をしぼりつつ 末のひと山どんなものかは
ありそうな手は全てヨミつくしつつも、これからどれだけ沢山の手が出てくるんだろう。と、
いったところかな。時間制限のなかった時代のことですから、考える時間はいくらでもあっ
たんじゃないのかな。一局を打ち終えるのに1日がかりとかね。3日がかり。10日がかり、
1カ月がかり。半年や1年、あるいは3年がかりとかもあったかもね。

【43番】逢見ての後の心にくらぶれば 昔は物を思はざりけり「権中納言敦忠」
  劫立ての種はあたりにかずあれば たつべきものをきかでやみけり
コウ立て「相手が受けてくれそうな所」は、そのコウの側に沢山あったので、相手が打っ
てきた箇所は全て受けていればいいものを、受けずに止めてしまった。かな。ううん、これ
は碁を打たない人に説明するのは難しいーーです。コウに勝って碁に負けた。と、いうこと
か。あるいは大局に影響がなかった。と、いうことなのかな。

【44番】逢ふことの絶えてしなくばなかなかに 人をも身をも恨みざらまし「中納言朝忠」
  あの人のたえて来なくばかくまでに 時をもかねもつかはざらまし
【あの人】→【碁敵?】→【恋人?】が暫く来ないので、こんなに時間も金も使わない。
と、いうことかな。賭碁でも打っていたのかな?それとも恋人にプレゼントでもしていたのか
な?はたまた飲食でもさせていたのかな?

【45番】哀ともいふべき人はおもほえで 身のいたづらになりぬべきかな「兼徳公」  
  変れども勝つべき筋はうちたえて あないたづらにをはるべきかな 
変化したけど、勝つ筋がなくなったので、べそをかいたままになっちゃった。と、いったと
ころかな。

【46番】由良の門をわたる舟人かぢをたえ ゆくへも知らぬ戀の道かな「曾禰好忠」
  愚図の手を選ぶその人不心得 めさきも見えぬうつけものかな
あっはっはー これほど人をこけ下ろして喜んでいれば、愉快でしょうね。

【47番】八重葎しげれる宿のさびしきに 人こそ見えね秋は来にけり「恵慶法師」
  八重桜しげれる山のにぎはひに 相手も見えぬ時は来にけり
みんな花見に出かけて行ったので、碁を打つ相手がいなくなった。あーあーつまんないな。
と、いったところかな。

【48番】風をいたみ岩うつ波のおのれのみ くだけて物を思ふころかな「源重之」
  劫をいどみはねうつ敵の顔をのみ ながめてものをおもふけふかな
コウをしかけ、ハネて受けた相手の顔ばかり、眺めて長考するかな。と、いうことかな。こ
れはよくあることですね。対局中に時々顔を上げて相手の顔色を窺う。視線でどこを考え、
何を想っているのかピーンとくる場合もあるからです。

【49番】御垣守衛士のたく火の夜はもえ 晝は消えつつ物をこそ思へ「大中臣能宣朝臣」
  高きより低く打つ手のあだなして すみはとりつつ負けをこそ思へ
中央より隅や辺を重視した手が悪く、隅を囲って負けてしまった。と、いうことかな。これも
よくあることです。形勢判断の誤りで気がついた時には既に遅し。全体的なバランスを考え
ながら打たないといけない。と、いう戒めですね。

【50番】君がため惜しからざりし命さへ ながくもがなと思ひけるかな「藤原義孝」
  劫のため棄ててしまひし石でさへ なほ手もがなと惜しみけるかな
コウのフリカワリで棄ててしまった石だけど、何か手がないものかと惜しんでヨム。と、いっ
たところかな。碁を知らない人にコウを説明するのは難しいです。1コの石が取れるんです
が、取ると取る為に打った石が逆に取られる状態になるんです。循環形だから、そこだけ
打つと永遠に続くので取られた方は「コウダテ」相手が受けてくれそうな別の所に打ってか
らでないと取り返せないのです。句の場合はコウに勝ったんでしょうね。で、受けずに取ら
れた石を惜しんでいるのです。

【51番】かくとだにえやはいぶきのさしも草 さしも知らじなもゆるおもひを「藤原実方朝臣」
  投げるだに惜しき思ひのこのいくさ 石のみなみな活きあるものを
投了したくないほど善戦して、石は全て活きたのに、やっぱりダメか。悔しい思いの滲み出
てくる句ですね。

【52番】明けぬれば暮るるものとは知りながら 猶恨めしき朝ぼらけかな「藤原道信朝臣」
  打ちぬれば勝負ありとは知りながら なほうらめしき負けいくさかな
「なほうらめしき」とは負けたのがよほど悔しかったのでしょうね。この気持よく解りますね。

【53番】なげきつつ獨りぬる夜のあくるまは いかに久しきものとかはしる「右大将道綱母」
  かこちつつ相手待つ日の淋しさは いかにもつらき心地にぞある
前にも似たような句がありましたね。碁を打つ相手のいない悲しさ。よほど気の合う相手だっ
たのでしょう

【54番】忘れじの行末まではかたければ 今日をかぎりの命ともがな「儀同三司母」
あの時のうれしき勝は忘れねど けふの手合の憂きこともがな
前に勝ったのは嬉しかったけど、今また打つのは憂鬱だな。かな。どうしたのかな。なにか
あったのかな。まあー誰にでも打ちたくない時は、あるにはあるんですね。

【55番】瀧の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れて猶聞えけれ「大納言公任」
  君がことはかねて久しく恋ひつれど うちて習ひておほしたひけれ
あはっ、この句は恋しい人と碁を打ったり、習ったりすることで、益々愛しくなった。と、い
ってますね。もしかすると、碁を打ったり、習ったりするのは好きな人に近づく術だったのか
も知れませんね。

【56番】あらざらむ此世の外の思ひ出に 今ひとたびの逢ふ事もがな「和泉式部  いざ勝たむこれぞ番棋のおもひでに いまひといきの考えもがな
番棋は番碁のことで、例えば【三番手直り】→【3回打って3連勝するとハンディが増えたり、減ったりする】実力の差をはっきりさせる為に打つ碁のことです。
紫式部は和泉式部を評して【けしからぬところがある】と記しているのです。この時代の女性の恋愛はわりと自由なところがあったらしいのです。で、和泉式部の恋人の多さを嫉妬したのか、どうなのかな??」


【57番】巡りあひて見しや夫ともわかぬまに 雲がくれにし夜半の月かな「紫式部」
  つつきあひてあとや負けともわかぬ間に 逃げかくれにし弱き敵かな
戦いの途中だから、まだ負けとも判らないのに、逃げたり、隠れたりする何と弱い敵なんだろう。と、いったところかな。この句を見ただけでも紫式部の実力は相当なものであったろうと想像できるかもね。あはっ、けどけど弱き敵かな。とはまたなんたる自信家なんでしょうね。

【58番】有馬山ゐなの笹原風ふけば いでそよ人を忘れやはする「大弐三位」
  敵の山その黒き腹見破れば いかでか胆をとらでやはなる
相手の陰謀は見え見えなので、その魂胆を打ち砕いてやるぞ。と、いったところかな。

【59番】安らはで寝なましものを小夜更けて かたぶくまでの月を見しかな「赤染衛門」
  寝不足で打つまじものを夜の更けて みにくきまでの負けを見しかな
寝不足だから打たねばいいのに、徹夜してコテンパンに負けてしまった。かな。あはっ、この人物は根っからの碁好きのようですね。

【60番】大江山いく野の道の遠ければ まだ文も見ず天のはし立「小式部内侍」
  見ればいまいくさの道の多ければ まだ棄てもせず隅の劫立て
まだ戦いの場は沢山あるので、諦めないで隅のコウ立てを打つ。【コウ立て】→【コウを取り返す為に打つ手】闘志満々といったところかな。



 古月庵のもじり棋歌百人一首は【60番】までしか載っていませんので、【61番】からは【ゆうちゃんのもじり棋歌】私の創作とさせて頂きます。

【61番】いにしへの奈良の都の八重櫻 けふ九重に匂ひぬるかな「伊勢大輔」
  いにしへの京の都の寂光寺 本因坊に帰るかな

【62番】夜をこめて鳥の空音ははかるとも 世に逢坂の關はゆるさじ「清少納言」
  夜更けまで石音は響かせるとも 敵に策略の隙はゆるさじ

【63番】今はただ思ひ絶なむとばかりを 人づてならでいふよしもがな「左京大夫道雅」
  今はただ難解な手どころとばかりに よみに耽るもよしとするかな

【64番】朝ぼらけ宇治の川ぎりたえだえに あらはれ渡る瀬々のあじろぎ「権中納言定頼」
  朝ねぼけ囲碁の手のよみたえだえに あらわれ浮かぶ妙手の味わい

【65番】恨みわびほさぬ袖だにあるものを 戀にくちなむ名こそをしけれ「相模」
  恨みなげきし碁敵にあるものを 負けて喜ばす手こそを打ちにけれ

【66番】もろともにあはれと思へ山櫻 花より外にしる人もなし「大僧正行尊」
  もろき壁にあらずと思へ黒の石 我より外にしる人もなし

【67番】春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立む名こそをしけれ「周防内侍」
  碁の読みの夢ばかりなる手筋に かなわぬ涙ありこそを知りけれ

【68番】心にもあらでうき世にながらへば 戀しかるべき夜半の月かな「三条院」
  心にも洗うべき邪心ありしならば 改めしかるべき正道の光りかな

【69番】嵐吹く三室の山のもみぢ葉は 龍田の川のにしきなりけり「能因法師」
  取りゆく白石の眼の枝や葉は 大河の水と消えるなりけり

【70番】淋しさに宿を立ち出でてながむれば いづこも同じ秋のゆふぐれ「良暹法師」
  怪しさに手をふと止めてながむれば いづこも同じ鶴の巣ごもり

【71番】夕されば門田のいなばおとづれて あしのまろやに秋風ぞふく「大納言経信」
  敵されば負碁の反省おとづれて 筋のわるさに我ぞ気づく

【72番】音に聞くたかしの濱のあだ浪は かけじや袖のぬれもこそすれ「祐子内親王家紀伊」
  音に聞く手筋の冴えの見事さは カカリや袖のあきもこそすれ

【73番】高砂の尾上の櫻咲きにけり 外山の霞たたずもあらなむ「前中納言匡房」
  一間の飛びの悪手なしにけり 厚味の威力ぼけにありける

【74番】憂かりける人をはつせの山おろし はげしかれとは祈らぬものを「源俊頼朝臣」
  受かりける攻めをしのぎの筋おろし はげしかれとは祈らぬものを

【75番】契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋もいぬめり「藤原基俊」
  契りおきしさせしが初段を命にて あはれ今年の秋も去りにけり
 
【76番】和田の原こぎ出でて見れば久方の 雲ゐにまがふ沖津白なみ「法性寺入道前関白太政大臣」
  黒石の原こぎ出て見れば白石の 活路に出会い勝ちの碁なり

【77番】瀬をはやみ岩にせかるる瀧川の われても末にあはむとぞ思ふ「崇徳院」
  読みを分かつ道に悩むる筋川の われても末にたどるとぞ思ふ 

【78番】淡路島かよふ千鳥の鳴く聲に 幾夜ねざめぬすまの關守「源兼昌」
  碁打ち宿かよふ烏鷺の鳴く石音に 幾夜ねざめぬすみの攻防

【79番】秋風に棚引く雲の絶間より もれ出づる月の影のさやけさ「左京大夫顕輔」
  碁盤に響く石の絶間より もれ出づる読みの裏のおくぶかさ

【80番】長からむ心もしらず黒髪の みだれて今朝はものをこそ思へ「待賢門院堀河」
  長からむ読みもしらず浅知恵の みだれて敵は泣くをこそ思へ

【81番】ほととぎすなきつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる「後徳大寺左大臣」
  しらさぎの鳴きつる方をながむれば ただ妙手の冴えぞ残れる

【82番】思ひわびさても命はある物を うきにたへぬは涙なりけり「道因法師」
  思ひわびさても負けはある物を 勝ちにたへぬは涙なりけり

【83番】世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞなくなる「皇太后宮太夫俊成」
  読みの中よ道こそなけれ思ひ入る 碁の奥にも光りぞなくなる

【84番】永らへばまたこの頃やしのばれむ うしと見し世ぞ今は戀しき「藤原清輔朝臣」
  永らへばまたこの頃やしのばれむ 憎しと見し敵ぞ今は恋しき

【85番】夜もすがら物思ふころは明けやらで 閨の隙さへつれなかりけり「俊恵法師」
  夜もすがら思案のころは明けやらで 負けの碁さへつれなかりけり

【86番】嘆けとて月やはものを思はする かこち顔なるわが涙かな「西行法師」
  嘆きとて碁や敵の勝ちとなりける くやし顔なる我が涙かな

【87番】村雨の露もまだひぬまきの葉に 霧たちのぼる秋の夕ぐれ「寂蓮法師」
  囲碁の道もまだきわめぬ内に 壁たちふさがる秋の夕ぐれ

【88番】難波江の蘆のかり寝のひと夜ゆゑ 身を盡てや戀わたるべき「皇嘉門院別当」
  攻防の筋の勝手読みになるがゆえ 碁に負けて悔しかるべき

【89番】玉の緒よたえなばたえね永らへば 忍ぶる事のよはりもぞする「式子内親王」
  逃げ石よ息たえだえに永らへば 勢かたむきて勝ち碁となりぬ
 
【90番】見せばやな雄島のあまの袖だにも 濡れにぞぬれし色はかはらず「殷富門院大輔」
  足ばやな布石のすきの合間にも 打ち込みぞ打ちし敵は勝ちえず

【91番】きりぎりすなくや霜夜のさむしろに 衣かたしき獨りかもねむ「後京極摂政前太政大臣」
  きりぎりになるや白石の惨めさに 心くるしき独りなやめむ

【92番】わがそでは潮干に見えぬ沖の石の 人こそしらねかわく間もなし「二条院讃岐」
  わが意志は無心にあれと願えども 神こそならぬ良き筋もなし

【93番】世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海士の小舟の綱でかなしも「鎌倉右大臣」
  碁の中は常にもがくな正着の 棋士の心の隙でかなしも

【94番】みよし野の山の秋風小夜更けて ふる郷さむく衣うつなり「参議雅経」
  よみし碁の筋の難問解きあかし 石音たかく打ち下ろすなり

【95番】おほけなく浮世の民におほふかな わがたつ杣に墨染の袖「前大僧正慈圓」
  おぼろげな筋道の読みにたよるかな わが冴え脳に妙案の影

【96番】花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり「入道前大政大臣」
  隙さそふ手筋の罠の問ならで 解きゆくものはわが身なりけり

【97番】來ぬ人をまつほの浦の夕なぎに やくや藻鹽の身もこがれつつ「權中納言定家」
  打つ敵を碁盤の側の脇息に 待つや時間の身もこがれつつ

【98番】風そよぐならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏のしるしなりける「従二位家隆」
  勝ちにけるこの碁の褒美ご馳走は 酒と肴の味見なりける

【99番】人もをし人も恨めし味氣なく 世を思ふ故に物思ふ身は「後鳥羽院」
  打つもよし負けも恨めし味気なく 碁を思ふ故に物思ふ身は

【100番】百敷や古き軒端のしのぶにも 猶あまりある昔なりけり「順徳院」
  石音や古き碁盤のしのぶにも 猶あまりある昔なりけり