5日目



ようやく皆が起きてくる時間、ガウリイの部屋の前にたたずむ人影が1つ。

「・・・ヴァルガーヴ、ガウリイさんが出てくるのを待ってるんですか?」

その様子に思わず声を掛けてしまったのはフィリア。彼女はここ数日のヴァルガーヴの玉砕っぷりに少なからず同情していた。
声を掛けられたヴァルガーヴはただ小さく頷くのみ。視線はドアに固定されたまま。

「・・・ちょっといいですか?」
「何だ?」
「疑問に思ってたんですけど、本気でガウリイさん口説こうって思ってますか?」
その問いにヴァルガーヴが首を傾げる。
それを肯定と取ったフィリアはヴァルガーヴを廊下の端まで連れて行った。


「本気で口説くなら、ちゃんと対策を考えてからじゃないといけないと思うんです」
いきなり語り始めたフィリアにヴァルガーヴが不審そうな表情を浮かべるが、彼女は構うことなく話し続ける。
「ガウリイさんを口説くなら彼の庇護欲の強さを利用しないと駄目だと思いますよ。だってガウリイさんって来る物拒まずで、大抵の事受け入れちゃう人じゃないですか」
言われてみれば、他人の保護者を名乗ったりなんてよほど世話好きな人じゃないとしないわけで。

「・・・で?」
そう結論を求めるヴァルガーヴに、小さくため息を着くフィリア。
「ですから、ガウリイさんの庇護欲をそそるようなアプローチをすれば、少しはまともに相手してもらえるんじゃないですか、ということですよ」
今までまともに相手をしてもらえていない自覚があるだけに、神妙にヴァルガーヴは頷く。
その一方フィリアは、余計なことしちゃったかも、と少し後悔していた。内心でガウリイに謝る。

「よしっ」
いきなり声を挙げたヴァルガーヴにフィリアが肩を竦ませる。
「その方向で対策を考えてくる!!」
そう宣言して姿を消すヴァルガーヴに、フィリアは素直なのはいいんだけど・・・、と苦笑を浮かべた。




日も落ちて、家々に光がともる時間。
ここ数日、鬱陶しいほどの勢いで付きまとっていたヴァルガーヴが訪れないことに疑問を感じながらリナ一行が食事を取っていると、ようやくすっかりおなじみとなった気配が現れた。
とはいっても食事中なのでおとなしく入り口のところで食事が終わるのを待っている。
実際リナは、今日は付きまとわないから明日まで期間を延長してくれ、などと言われるのではないかと内心思っていたので、現れたことに胸をなでおろした。

食事が終わり各々が席を立ち始めると、早速ガウリイの傍へとやってくるヴァルガーヴ。
「お前今日はどうしたんだよ」
傍にやって来たとたん抱きつこうとするヴァルガーヴを手で押さえながら、ガウリイが尋ねる。その問いに対してヴァルガーヴは、う〜んちょっと・・、などと曖昧に返答する。
そのヴァルガーヴをくっつけたまま皆に、おやすみ、と声を掛けるガウリイ。階段を登りづらいから、とヴァルガーヴを振り払った。

階下では、フィリアが心配そうに二人を見ていた。
「どうしたのフィリア?」
「いえ、大丈夫かな、と思いまして」
二人ともが心配なので、どちらと指定することも無くそう答えると、リナはガウリイの事だと思ったようであっけらかんと笑った。
「どうせもう部屋に引っ込むだけだもん。大丈夫でしょ。今日が最後だからこれ以上付きまとわれることも無いだろうし」
「そう・・・、ですよね・・・」
その場合はヴァルガーヴが心配なんだけど、と心の中で呟くフィリアだった。




「さぁ、俺はもう部屋に入るからここまでだ」
腕にくっついているヴァルガーヴに告げると、いつもなら素直に離すはずが今日はまだしがみついている。
「・・・?」


「あのさ、一緒に寝たら駄目か?俺、実は一人で寝るのが苦手で・・・」


結局、朝から考えてこの程度のことしか思いつかなかったヴァルガーヴである。
数刻の間を置いて返ってきてのはあっさりとしたガウリイの声で。


「・・・、駄目に決まってるだろ」


自分でもそうだろうとは思っていたが、改めて本人に言われると結構凹むものだった。
その様子をあきれてみていたガウリイは、軽くヴァルガーヴを小突いた。
「なにお前。今日一日こんなことを考えていたのか?」
項垂れているヴァルガーヴに、ガウリイは深々とため息を着く。
そして少し下にある緑色の頭をぐりぐりと撫でる。
「最後の一日をそんなことに費やすなんて、お前も馬鹿だなぁ・・・」
「・・・・・」


『あれ、今なにか聞いたような・・・?』



「・・・!?最後の一日っ!?」

いきなり頭を上げたヴァルガーヴに、ガウリイが思わずのけぞった。
そのガウリイの肩をがしっと掴み、詰め寄る。

「えっ、最後、最後って・・・。今日は5日目!?」
その勢いに思わず目が点になったガウリイは、ただこくこくと頷く。
ヴァルガーヴはそのガウリイをじっと見つめながら、今までのことを思い起こす。1日目はずっとくっついてて、2日目、3日目、4日目・・・。

「・・・そうだ、今日は5日目だった!!」
ついガウリイを口説き落とせるかもしれない、ということにばっかり意識がいって今日が何日目か忘れてた・・・。
「あぁ〜、しまった!!」

目を見開いていたかと思うと、今度はがっくりと力を無くすヴァルガーヴにガウリイも状況を把握する。
「お前、ホントに馬鹿だなぁ・・・」
「えっと、どうしよう。明日の分の計画もあったのに」
俯きながらぶつぶつと言うヴァルガーヴに、ガウリイも苦笑するしかない。苦笑の度を越して笑いになってしまいそうだ。

「そうだ、リナに交渉してあと一日延ばすか。いや、でも・・・」

ポスッポスッ。

「・・・?」
不意に頭を叩かれて顔を上げると、ガウリイが苦笑を浮かべていた。

「お前さ、一人で寝るのが苦手なのか?」
「・・・!?」

いきなりのことで答えられずに、口を無駄にパクパクと開閉させていると、ガウリイが「どうなんだ?」と尋ねてきた。

「・・・苦手って言うほどじゃないけど、ガウリイが一緒に寝てくれたら嬉しい・・・」

もごもごと答えると、腕をがしっと掴まれた。そしてガウリイはヴァルガーヴを連れたまま部屋に入ろうとする。
そのまま入ろうとしたヴァルガーヴだったが、直前に立ち止まる。
「部屋、入ってもいいのか・・・?」
遠慮がちに問いかければ、返ってきたのは苦笑で。
「いいんじゃないか」
と微笑みながら言われれば、ただそれに見惚れるだけだった。

「但し、今日だけだからな。勝手に入ったりするなよ!」
のほほんと見ていると急に言われ、ここでガウリイの機嫌を損ねてなるものかと、ヴァルガーヴはこくこくと何度も頷いた。


そして扉は静かに閉まった。


5日目end  2010.5.5掲載



翌日



「あらっ、ヴァルガーヴ、またガウリイさんを待ってるの?」
昨日と同じようにガウリイの部屋の前に立っているヴァルガーヴに、フィリアが声を掛ける。

ちらりとフィリアを見る眼差しは昨日と少し違って、フィリアは疑問に思う。
「・・・いや、今ここから出てきた所だ」
「・・・、まぁ!(それはガウリイさんが口説き落とされた、ってことなのかしら?)」
ヴァルガーヴ、がんばったのね、と内心エールを送りつつ確認のために尋ねる。

「昨日はどこまでいったの?」
「・・・?」
何を言ってる、というような表情をしているヴァルガーヴに、意味が通じなかったのかしら、とフィリアは思う。ただ直接的な表現で尋ねるのはさすがに恥ずかしい。


「・・・キス、した?」

「・・・!?出来るわけ無いだろ!!」

出来るわけ無いって…、それは哀しいわね。と思ってしまったフィリア。
直後にドアが開きガウリイが顔を出す。

「何騒いでるんだ、ヴァルガーヴ・・・、とフィリア?」
不思議そうな顔をするガウリイに、笑って誤魔化そうとするフィリア。
しかし勘は良いガウリイのこと。この状況に大体の事情を把握した。

「もしかして、ヴァルガーヴに何か余計なことを言った?フィリア?」
「・・・あはっ」
自覚があるだけに、明らかに誤魔化してます、というような笑いしか出ない。
間に挟まれているヴァルガーヴは、我一切関せずでさっさとガウリイにくっついている。

「・・・まあ、いいけど」
どうせコイツは何か言われたとしても、それを十分に生かすなんていうことは出来なさそうだ。
「一緒に寝ててもな〜んにも出来ないようじゃなぁ?」
「「・・・!?」」
一緒に寝たって何、というフィリアと、まさしく固まっているヴァルガーヴ。


「・・・えっ、寝込みを襲って良かったのか・・・」
ぽそり、と呟いてしまった。それはもちろんすぐ傍のガウリイの耳にも入る。


その直後にガウリイが浮かべた笑みはとても美しく、そして恐ろしかった。


「そんなことしたら、問答無用で切りつけた後窓から放り投げる」


決して冗談ではない口調に、ヴァルガーヴの背筋が凍る。
そしてガウリイはヴァルガーヴの手を剥がしながら言い放った。

「大体約束は昨日までだろう。もうべたべたくっつくな!!」

それを言われ、さらに強くしがみつくヴァルガーヴ。
「嫌だ。い〜や〜だ!!」
子供のように駄々をこねる姿に、再び心ひそかに応援してしまうフィリア。
このドタバタ劇に、ガウリイはため息を着くことしか出来なかった。



翌日end  2010.5.5掲載



このお話はこれでお終いです。
ここまで読んで下さってありがとうございました。


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