マイワイフ? 1
その異様な光景に、おいらは顔が引きつるのが自分でも分かった。
「ん〜、ん〜〜、ん〜」
「…えっと、ヴァルガーヴ様?」
のたうつ人間と、満面の笑顔のヴァルガーヴ様。
はっきり言って不気味だ。
「…こいつは?」
「嫁だ」
「…………、……はぁ」
((嫁って、あんたが勝手に言ってるだけだろ!!))
おいらの心情を察したのか、救いを求める目を向けるガウリイ。
(いや、過剰に期待をされても困るんだけど…)
おいらが猿轡だけでも解こうと手を伸ばした、その時。
ギンッ………。
ダラダラ…。
「お前…、俺の嫁に何しやがる!!」
ぎゃーっ、いきなり怒りだしたよ、この人。すごい目付きで睨んでる…。
てか、おいらの身がヤバイ……。
絶対嫉妬してるよ、この人。
「……、この人が苦しそうだったので…」
「…そうか……」
なぜにそんなに疑っている目を向けるかな、誰も逃がすとは言ってないのに。
逃がしたいけど。
自分の為にも。絶対おいらにも降り掛かる
「さあ、ガウリイ。新婚夫婦の営みといこうか……。」
「「………!!」」
((…この人、本気だ!!))
「んんぅ〜、ん〜!!」
合掌。
(無理です)
暴走するヴァルガーヴ様を止められる者はこの場にはいなかった。
眠れない夜が明けて(6時間は寝たけど)、やっぱりこのまま放っておく訳にもいかないよな、と決心した。
それでも重い足取りに、心強い味方が現われた。
「何してんだ、ジラス?」
「親分〜」
ヘルプ〜、としがみ付く俺に困惑している親分。
「ヴァルガーヴ様が、…おかしいんですよ〜」
何はともあれ、2人でヴァルガーヴ様の部屋まで行く。
(……、まさか、裸とかないよな?)
部屋の前まで来て、ふいに思い起こされる昨夜の会話。
夫婦の営み、とか言ってたしな〜、ヤバイかも。
ためらうおいらを余所に、ノブに手を掛ける親分。
(昨日の様子からして、もしガウリイが裸だったりしたら、うっかり見たらおいら達がヤバイ……)
やっぱり止めたほうがいい、とおいらが親分に親分に言おうとした時、部屋の中から叫び声が上がった。
「うわ〜〜っ!!」
勢い良く扉を開く親分。
そして目の前の光景に固まっている。
「どうしたんで………、なんでそいつがここにいるんですか!!」
(良かった、裸じゃない)
ベッドの上のガウリイは、昨日はミノムシ状態にぐるぐる巻きにされていたけど、今は猿轡は外されて手と足だけを縛られている。
それに対面してベッドに起き上がっているヴァルガーヴ様。
なんで、あんたが驚いてんですか!!
とりあえずグラボスの親分に簡単に状況を説明する。
「………、嫁って、あいつ男だろ…」
「そうなんですよね…。その上めちゃくちゃ嫌がられてたし…」
ついうっかり傍観者気分になってしまう。
「……………、本物だ…」
「……」
嬉しそうにペタペタとガウリイを触っているヴァルガーヴ様。
あ、ガウリイ、イライラしてる……。
ゴツッ!
「「……っう」」
頭突き食らってる…。お互い痛そう。
言葉より先に頭突きって、ガウリイも激しい。
「お前が俺を無理矢理連れて来たんだろーが!!」
ゴツッ!
また頭突き。
かなり怒りが溜まってるな…。てか、手足の自由が奪われていてもこんなに暴れるガウリイって、怖ぇ〜。
「俺が無理矢理連れて来たって……、なんだそれ?」
「「えっ………?」」
「お前が昨日、飯を食ってた俺を無理矢理連れて来たんだろーが!!」
「………?」
ムカッ。
ゴツッ!!
「「くぅ〜っ」」
……、また頭突き。自分も痛いだろうに。
「昨日俺を連れて教会に行ったり、宝石商を脅して指輪を作ったのも忘れたのか!!」
((……うわぁ〜、それは引くな))
怒鳴るガウリイに、きょとんとしているヴァルガーヴ様。
「…………、俺、男前…」
「「「…えぇ〜っ!?」」」
てことは、昨日のは全部本心って事ですか!
クールな顔して、今まで何考えていたんですか!
ガウリイも呆れてる。
ヴァルガーヴ様は顔を赤らめているし。どんだけ好きなんですか、あんた。
「という事は、俺とガウリイは正式に夫婦ってことか?」
そっちに発想が行ったか〜!?
ぶんぶんと頭を振るガウリイ。顔が引きつっている。
多分俺たちの事は眼中に無いのだろう。愛おしげにガウリイの頬を撫でるヴァルガーヴ様は、満面の笑み。
…キモッ。
ゴツッ!!!!
「「〜〜〜〜っ!!!!」」
あ、ガウリイもキモかったのか。
今まで以上に激しい頭突きをして、今まで以上に悶絶している。
悪いけど、ちょっとおかしい。そろそろ頭突きは止めた方がいいと思いますよ〜。
「…、とりあえずこの縛ってあるのを解け!!」
ごもっとも。
ガウリイに言われるままに素直に縄を解くヴァルガーヴ様。
シュル、シュルッ。
まず手を解いてから、次は足。
擦れたのか、手首が赤くなっている。
「薬、持って来ましょうか?」
思わず声を掛ける俺。
「いや、いいよ。痛くないし。」
ばっ、と顔を上げたヴァルガーヴ様が気まずそうな表情をしている。
怪我をさせるのは本望じゃなかったんだろうな。
「…解いた」
「んっ……」
半日以上縛られていたのだから少しはよろめいても良さそうだが、ガウリイは身軽に床に降りて伸びをひとつした。
「さて、俺をもといた所に連れて行ってもらおうか」
びしっ、とヴァルガーヴ様を指差すガウリイ。
「………、お前は俺の嫁だろ。何処にも行く必要は無い。ここに居ればいい」
(((………違うって…)))
ゴツン。
拳骨で頭を殴られ、しゃがみこむヴァルガーヴ様。
容赦ないな〜、ガウリイ。
「俺はお前の嫁じゃないし、嫁になる気も無い!!大体俺は男だ!!」
俺と親分はついウンウンと頷いてしまう。
「でも、教会も行ったし、指輪交換もしたし…」
「教会はただ行っただけだし、指輪はお前が無理やり俺に嵌めただけで、俺はお前にはやってねぇ!!」
ガミガミと言われ、落ち込んでいるヴァルガーヴ様。ちょっとかわいそうだけど、それ以上に巻き込まれているガウリイが哀れだ。
これは自分が間に入って、ガウリイを昨日いたという所に送っていったほうがいいのか、などと考えているとヴァルガーヴ様がポツリと呟いた。
「…………、でも…、俺はお前が好きだぞ」
「…………っ/////ばかっ/////」
(……ヴァルガーヴ様〜、そういう事できるんなら最初からしてくださいよ〜)
急に顔を朱に染めたガウリイは、明らかに今までの勢いを失っていた。
「で、どうする?」
親分が、ヴァルガーヴ様ではなくガウリイに問いかける。
今のヴァルガーヴ様じゃ相手にならないという判断だろう。
おいらもそう思う。
「………えっと、とにかく皆の所に帰りたいかな…」
頬をポリポリと掻きながら苦笑を浮かべる姿は、よく見かける彼の姿で、こちらまで安心する。
「……ガウリイ〜」
情けない声を上げるヴァルガーヴ様に、ガウリイが困ったような表情を浮かべる。
「俺はお前の嫁じゃないし、リナ達と離れる気もないからな!!」
「ヴァルガーヴ様、あんまりしつこいと(今まで以上に)嫌われますよ」
そうそう、と頷く親分。
「……でも…」
「…俺は仲間の所に帰りたい」
「…………、うん」
なんで、あんたはガウリイの前だとそんなに大人しくなるんですか。昨日は暴走してたけど。
「じゃあ、後から……」
(((往生際の悪い…)))
ぺちり、と軽く額を叩かれるヴァルガーヴ様。
「今からだよ」
見下ろしている視線が威圧的だ。ヴァルガーヴ様が萎縮している。
「…………………分かった」
立ち上がったヴァルガーヴ様がガウリイを抱き締める。
一瞬身じろぎをしたガウリイだったが、すぐにその身をヴァルガーヴ様に預けた。
直後、2人がおいらの前から消えた。
戻ってくる気配はないな。
「あの2人、戻ってこないよな」
「…多分……」
親分と2人、深いため息をついた。
平和だ………。
続く
マイワイフ?2