マイワイフ? 2
昨日の夜のことだった。
みんなでいつものように賑やかに食事をしていたら、突然ヴァルガーヴが現れてガウリイさんを連れて行ってしまった。
それからみんなで手分けをしてガウリイさんを探したけれども見つからなくて、どうも状況的にガウリイさんの身に危険もなさそうだから、ということで昨日の夜はそのまま寝ちゃったんだけれども……。
何やら「俺の嫁〜」とかヴァルガーヴが言っていたのは気のせいだよね……。
そして今朝。
静かに朝食を終えたとき、リナさんがため息をひとつ。
「ガウリイさん、どうしてるんでしょうね…」
そんな私の一言に答えられる人は誰もいなくて。
「………もしかして…」
フィリアさんが不意に口を開いた。
「え、何か知ってるの!?」
身を乗り出すリナさんに、フィリアさんはちょっと困ったような表情を浮かべた。
「知ってるというか……、もしかしたらヴァルガーヴって求婚期に入ったんじゃないかな、と…」
「「「求婚期〜〜〜!?」」」
つい大声になってしまう私たちに、フィリアさんが声を抑えて、とジェスチャー。
私もリナさんもゼルガディスさんも目をぱちくりとさせる。
ちょっと恥ずかしそうに俯きながら、フィリアさんが説明をしてくれた。
「私たちゴールドドラゴンには、適齢期になると求婚期というのがあるんです。この時期はドラゴンそれぞれなんですけど、この時にはちょっと考えられないほど好きな相手に猛アタックをしてしまって、相手の迷惑とか一切考えられなくなってしまうんです」
つい、うわーっ、という表情をしてしまう私。リナさんたちも似たような顔をしてる。
「こんな問題有りな時期なので、本来はこの時期が近づくと薬で症状を抑えて日常生活に支障が出ないようにするんですけど……。昨日のヴァルガーヴは、嫁、とか言ってましたし……」
「……ヴァルガーヴは薬を飲んでいなくて求婚期が来て、ガウリイに猛アタックをかけた、と……?」
コクン、と頷くフィリアさん。
「「「「…………」」」」
なんていう傍迷惑な!!
そして気になることが1つ。
「ガウリイさん、男ですよ…?」
私の言葉に、先ほどから困った表情のままのフィリアさんは首をかしげた。
「普通異性にアタックするんですけどね。まあ、好意を寄せている相手がガウリイさんだったんでしょうか?」
……相変わらず変な人に好かれる人ですね、ガウリイさんって。
「ま、そういうことなら、ガウリイのことは心配しなくてもよさそうね〜」
そうリナさんが昨日から心配そうだった表情を崩して、力いっぱい伸びをした。
私も「そうですね〜」と同意する。
「この場合、問題なのはガウリイの旦那の貞操か………」
ピシッ…。
ちょっとゼルガディスさん。そんなこと乙女の前で言わないでくださいよ!!
それは私もちょっとはその可能性も考えましたけど、努めて忘れるようにしてたのに!!
多分、ほかの人たちも同じことを考えていたみたいで、みんな固まっている。
そんな気不味い状況を打破したのは聞きなれた声だった。
「ただいま〜。お、朝飯か?俺も食う〜〜」
パカ〜ンッ。
ガウリイさんの頭にリナさんが問答無用で投げたスリッパが命中していた。
「俺の嫁に何しやがる!!」
「「「「………」」」」
(ヴァルガーヴ、居たんですね…)
いつの間にか現れたヴァルガーヴが、ガウリイさんを後ろに庇っている。つもりなのだろう本人は。
庇われている人は、めちゃくちゃ嫌そうにしているけど。
あ、ガウリイさんがヴァルガーヴを押しのけた。
「…邪魔。……いやぁ〜、リナ悪ぃ」
ガウリイさんの苦情にもめげず、くっついているヴァルガーヴ。
「……、うん、まあ、無事だったらそれでいいんだけど…」
さすがにリナさんもちょっと引いているみたいで、口調も大人しくなっていた。
食事のために、私たちのテーブルのひとつだけ空いていた椅子にガウリイさんが座ると、ヴァルガーヴは別の席から椅子を持ってくると無理矢理ガウリイさんの横に割り込んだ。
ガウリイさんが「食べにくい」と文句を言えば、「俺が食べさせてやろうか?」ととんでもないことを言うヴァルガーヴ。
思わず頬張っていたサンドイッチを喉に詰まらせてむせるガウリイさん。ゼルガディスさんが差し出した水の入ったコップを一気にあおって息をついている。
「あほかーーーっっ!!」
ゴツン!!
叫んだのはリナさんで、言葉と同時に手近にあったトレイでヴァルガーヴの頭を叩いていた。
あ〜あ、トレイ歪んじゃった。これは弁償かな。
「お前、あっちに行け!!」
「嫌だ!!」
別のテーブルを指差すガウリイさんと、動かないと主張するヴァルガーヴ。2人の言い合いが続くかと思ったけど、それはフィリアさんによって中断された。
「…あの〜、ヴァルガーヴ。抑制薬って知ってます?」
「………?なんだそれ?」
私たちはフィリアさんの話を先に聞いていたから抑制薬というのが何なのか推測できるけど、ガウリイさんは何を言い出したんだ?と表情が語っている。そして肝心のヴァルガーヴも心当たりはない様子。
まあ、心当たりがあるなら飲んでいるだろうし、こんな状況にはなっていないだろうけど。
フィリアさんが2人にも改めて求婚期の説明をすると、ヴァルガーヴは始めて知ったようで少し驚いていた。ガウリイさんは…、いまいち分かっていないみたい。リナさんがまた改めて説明をしている。
「ですから、とにかく貴方も抑制薬を飲んだほうがいいと思うんです。今の貴方は冷静な判断ができる状況に無いわけですから。抑制薬は期間に入ってからでも効きますよ」
「嫌だ」
「…………えっ?」
何で?という表情をしているフィリアさん。私もゼルガディスさんリナさんも同じような表情をしている。
ガウリイさんは固まっている。この状況が改善されないってことだから、当然ショックですよね…。
(でも結婚相手っていったら、しっかりと選びたいと思うものじゃないの?)
先ほどまでのきょとんとした間の抜けた表情から一変、引き締まった表情をフィリアさんに向けるヴァルガーヴ。
「俺が元からガウリイが好きだったのは間違いないんだろう。なら何も問題ない。俺はガウリイを愛している!!」
「「「「「………………」」」」」
ヴァルガーヴを「ちょっとかっこいいかも」と思ってしまった私に反省です…。
「………/////、このバカ!!」
ゴツッ!!!!
上から拳骨を加えられたヴァルガーヴは、テーブルに突っ伏した。
ヴァルガーヴをテーブルに沈めたガウリイさんの顔が少し赤い。
まあ、さっきのあの発言に皆多少の差はあれ赤面しているんだけど。
「……痛い…、ガウリイひどい………」
「アホなこと言ってないで薬飲め」
「嫌だ」
テーブルに突っ伏したままヴァルガーヴはガウリイさんを見上げた。
そのまま、ピタリ、と固まった。
(ガウリイさん…、怖い……)
「………………飲め」
「………………ハイ……」
素直に返事をするしかないヴァルガーヴに、なんでガウリイさんが無事だったのか分かった。
この好機に、とフィリアさんは薬の準備に取り掛かった。
さすがに常備薬ではないみたいで、市販の薬草を使って調合しないといけないみたい。
でも直ぐに調合出来るフィリアさんがすごい。
いつまでも食堂に居座るわけにもいかないので、昨日からとってあった部屋に移動した。
間もなくフィリアさんが、薬湯の入った器を持ってやってきた。
「お待たせしました」
「ううん、大丈夫よフィリア。それより薬が出来たのね」
フィリアさんが笑顔で、はい、と言いながら器を差し出した。
私達が覗き込むと、そこには緑色の少し匂いのきつめの液体が半分ほど入っている。
わあ〜、飲みたくないなぁ。
「これを飲むのか…」
ヴァルガーヴも同じように思ったみたいで、顔を顰めている。
「そうですよ。見た目ほど飲みにくい物ではないから、大丈夫ですよ。」
ちらりと隣にいるガウリイさんの顔を伺うヴァルガーヴ。もちろんガウリイさんは、飲め、と促していて。
よし、と気合いを入れてフィリアさんから器を受け取ったヴァルガーヴは、その中身を一気に喉に流し込んだ。
眉、顰めてる。不味いんだろうなぁ。
飲み込んだあと、数回ヴァルガーヴは目を瞬かせた。
「あれっ…」
不意にその体がぐらつく。
そのままヴァルガーヴの体が傾いでいく。
あわててそれを支えるガウリイさん。
「フィリア……?」
そう声をかけたのはゼルガディスさん。
皆が注目をするなか、フィリアさんは、えへ、と笑った。
「この薬、速効性じゃないので、しばらく大人しくしとおいて貰おうと思って、睡眠薬を混ぜておきました」
「「「「…………」」」」
フィリアさんって…………。
眠り込んでしまったヴァルガーヴをとりあえずベッドに寝かせて、交代で起きるのを見張ることになった。
このまま放置して旅を進めよう、という意見もあったんだけれども、それだと本当に薬が効いたかどうか確認できないから困る、ということでヴァルガーヴが起きるのを待つことになった。
フィリアさん曰く、「この薬は自分たちが使っているものだから、種族が違う上に魔族にもなっているヴァルガーヴにどこまで効くのか、分かりません」とのこと。
絶対に効くと思っていたから、ちょっとショック。
さすがに1人でヴァルガーヴを見張るのは危険なので、2人で組んで見張っている。
今は私とリナさん。
「さっさと起きてくれないかな……」
「え〜っ、でもまた今朝みたいに騒がれたら嫌ですよ、私」
ヴァルガーヴが起きるのを待って早5時間。
そろそろリナさんは待つのが嫌になってきたみたい。私も実はさっきから退屈を持て余しているんだけど。
「一発殴ったら起きないかな?」
不意に椅子から立ち上がってベッドまで近づいたリナさんが、ぽつり、と呟く。
「……えっ?いやいやいや、ダメですって。わざわざ起こさないで下さい!!」
別にヴァルガーヴが殴られるのは構わないけど、面倒なことになりそうなので殴って起こすのは遠慮して欲しい。
でもリナさんは本気みたいで、殴るのに手ごろな物体を探している。
「硬くて、壊れなくて、持ちやすいもの、ないかな〜」
私の制止は聞く気なし、ですか。
「んっ………」
そのとき、ベッドの上のヴァルガーヴが小さく声を上げ、動いた。
そして目を開け、瞬かせる。
「…ちっ」
リナさ〜ん、今の舌打ちは何ですか。いえ、気持ちは分かりますが。
「皆さ〜ん。起きましたよ〜」
窓から叫ぶと、程なくどかどかという足音ともに扉が開かれ、みんなが部屋に入ってきた。
状況が飲み込めていないのか、ベッドの上で上半身を起こしたままヴァルガーヴの動きは止まっている。
その視線がフィリアさんを捉え、睨み付ける。
「お前、何飲ませた」
「別に、最初に言った抑制剤ですよ……」
フィリアさん、目が泳いでます。
そのヴァルガーヴの視線を遮る様に、ガウリイさんがその目の前に立った。正確にはリナさんに押されてその位置に立たされた。
「ヴァルガーヴ、これが誰だか分かる?」
「……これって、リナ…」
もちろん、ガウリイさんの苦情は無視される。
そしてそのガウリイさんをじっと見るヴァルガーヴ。
「「「「「…………」」」」」
暫くの沈黙の後。
「ガウリイだろ。ガウリイ=ガブリエフ」
「よっしゃ〜っ」
「良かった〜、効いたのね」
思わずガッツポーズをするガウリイさんと、胸をなでおろすフィリアさん。
ほかの皆も一様に安堵していて、笑顔になっている。
そうとなればリナさんの行動はすばやくて、まだベッドに座ったままのヴァルガーヴを立たせると、ぐいぐいと背中を押して部屋の外へと押し出した。
「お、おい、何をする」
困惑するヴァルガーヴに、満面の笑顔を向けるリナさん。
「もう用事は済んだから、出て行って。あとで迷惑料、たんまり貰うからね!!」
「えっ、なんだそれ!!」
ヴァルガーヴの言葉を聞く気の無いリナさんは、問答無用でドアを閉めてしまった。
暫くドアの外から何かを言っている声が聞こえたけど、それも暫くすると聞こえなくなった。
「本当に良かったです。薬が効いて。効かなかったらどうしようかと…」
「お疲れ」
「本当に助かったよ、フィリア。ありがとう」
椅子に座り込むフィリアさんに労いの言葉をかけるゼルガディスさんとフィリアさん。
「これで、ひと段落ですね…」
私も、ほっと息をつく。
迷惑料をどうやってヴァルガーヴから巻き上げよう、と考えているリナさんが隣に居ることには気づかない振りをして。
マイワイフ? おわり
ブログに掲載していたものですが、寝る前に携帯でいきなり書きはじめたので、かなり行き当たりばったりでした。
そして携帯だと書くのが大変なので、途中でやっぱりパソコンで書き出したという・・・。そしてその辺りから軌道修正を・・・。
そして「マイワイフ」へと続きます。
ssへ