雪虫 1
『A HAPPY NEW YEAR』
どこの地方でも年が明けるということはめでたい。リナとガウリイが立ち寄った街でも盛大な祭りが行われていた。
そしてそういう祭りならば必ず出てくるのが食べ物を売る露店で、そうとなれば制覇しないと気が済まないというのがこの2人。
「ちょっと何これ。初めて見た!!」
「おおっ。この甘しょっぱさがなかなか……」
などと祭りの喧騒と同じようににぎやかに次々と攻略していく。
両手に食べ物を持って食べながら歩いても、この時ばかりは誰も行儀が悪いなどとは咎めない。
その特権を2人して存分に堪能する。
2人ともひとしきり堪能したところで、些細なハプニングが起こった。
小さな子供が、ガウリイの服にソースたっぷりのフライをぶつけてしまったのだ。
一緒にいた親がひたすら謝り、もちろんガウリイもそれぐらいのことで怒るつもりはなかったのだが、さすがに服にシミが残るのは困る。
「あの、良かったら家で着替えてください。洋服は明日洗濯して宿の方にお届けしますので」
その申し出をガウリイはありがたく受けることにした。
貸して貰った服はパリッと糊がきいていて、お詫びも兼ねてきっととっておきの服を貸してくれたのだろう。
(いい服を貸してもらって、かえって悪かったな…)
そう思いながらも、旅の途中ではなかなか着る事の無い愛情のこもった服に、祭り会場に戻るガウリイの脚は自然と軽くなった。
その足がピタリと止まる。
「…久しぶり」
「ああ、半年ぶりか。お前がいるという事は、リナも来ているのか?」
その言葉にガウリイは頷いて、自分より若干高い視線に合わせるために視線を上げた。
「人の祭りというものを見てみようと思って寄ってみたが、お前に会えるとはな」
ふんわりと笑う表情についガウリイの警戒も緩む。
もともと、敵ではない相手には必要以上の警戒心は抱かないガウリイ。
「新年早々、お前に会えるとは運が良い」
「わっ……」
背筋をなぞり尻へと落ちる手に、ガウリイが飛び上がる。
距離を取ろうとするが、すでに腕に囲われた状態ではそれもかなわず。
「……なあ、相変わらず手が早いな…」
その言葉に、ただニヤリと笑みを浮かべる。
「でっか…、んぅっ……ん」
ガウリイが言葉を紡ぎ切る前に、その唇は塞がれた。
「んぅ………ぅ、はぁ、相変わらず懲りないな、お前は」
それだけを言うと、再びガウリイの唇を塞ぐ。今度は水音を立てながら。
その体が力を無くすまで。
今まで幾度となく過ごしてきた新年というもの。
それは人が決めた括りであり、ミルガズィアには感慨の無いものではあったが、時間を区切るものとしては便利だとミルガズィアは気に入っていた。
その新年に人は祭りを行う。それは文化を見ることが出来る非常に興味深いものであった。
だから機会があればなるべく色々な祭りを見るようにしていたのだが。
本能の前には、知的好奇心というものもあっけなく崩壊するものだという事を、ミルガズィアは学習した。
服に手を掛けた時、ガウリイがミルガズィアの手を押さえた。
「待ってくれ…、この服は……」
この服は無傷で返さなければいけなかった。
暖かな家族の空気を自分に与えてくれたものだから。
クイッ、と顎を持ち上げられたガウリイ。
熱を孕んだ瞳で見つめられたミルガズィア。
その駆け引きを制したのは、場数であったか、年の功だったか。
宿屋のベッドの上で熱く滾るものを受け入れているガウリイは、相変わらず熱に翻弄されていて。
それでも身に纏っている家族の香りが気になっていた。
今までの如何なる者とも違う、熱だけでは動かすことの出来ない人間に翻弄されて。
それでもどこか甘えを残した仕草に、どこか付け入るすきは無いものかと考える自分の浅はかさに苦笑するしかないミルガズィア。
その二人がガウリイが取っていた宿のベッドの上で睦み合えば、その激しさにベッドが軋んだ。
「や、やぁ……、ちょっと…」
己の肩を押し戻そうとするガウリイに、ひとつ笑みを浮かべる。
「なあ、ガウリイ」
耳元で囁けば、んぁ…、という返事ともつかない音と共にガウリイが自分に覆いかぶさっているミルガズィアを見上げる。
「この服を汚すのと、私に奉仕するのはどちらがいい?」
つづく