雪虫 2
※性的表現がありますので、18歳未満の方は読まないでね。

 
「はぁ……?」
 ガウリイが僅かに眉根を寄せる。
 汚すか奉仕するか、と言われても着衣のまま行為になだれ込んでしまったので、すでに飛沫が飛び散ってしまった服は汚れており、その選択は成立しないのではないかと思う。

 無言でいるガウリイに、ミルガズィアは僅かに押さえつける力を緩める。
 それは相手を逃がすためでは無く、答えを促すため。

 ガウリイは一つ、自分にしては妙案だと思うものをひらめき、肘を付いて上半身をいくばくか起こす。
 そして服の襟に手を掛けボタンを一つ外す。

 挑発的な笑み付きで。

「ただ汚さない、ってだけじゃあ俺が損じゃないか。あんたがこの後のフォローを完璧にしてくれるなら、奉仕、してやってもいいぜ」

 ついでに自分を押さえている手に舌を這わせる。
 ゆっくりと。

「…いいだろう」
 その言葉と同時に、ミルガズィアは拘束していた腕の中からガウリイを解放し、自身をガウリイのナカから引き抜く。
「…ッ……」
 自由になったガウリイは、くるりと身を回転させミルガズィアの下から抜け出すと、上半身をベッドの上に起こした。

 そのガウリイの肩に手を掛け、自分の方を向かせたミルガズィアは己もベッドの上に起き上がりベッドヘッドに背を預けた。
 そして空いている方の手で、ガウリイのシャツを引っ張る。
「さっそくだが、奉仕をしてもらおうか」

 相手はずいぶんリラックスをしているようで、ベッドヘッドに肩を掛け笑みを浮かべている。
 ミルガズィアは煩わしい性格はしてないから、まっとうな所謂『奉仕』をすればある程度は満足はしてくれるのだろうが…、とガウリイは逡巡し、早々に満足してもらうためにまっとう以上の奉仕をすることにする。


 まず自分のシャツのボタンを外したガウリイは、シャツは羽織ったままミルガズィアの肩に手を掛けて、その体に覆い被さった。
 そして肩に掛けた手はそのままに、ガウリイは彼の喉元へと唇を寄せて服のボタンを口に含んだ。
「ん…」
 ひんやりと冷たいボタンを手は使わず、舌と歯でボタンホールに押し込んでいく。

 ミルガズィアの視線の下では、金色の頭がゆらゆらと揺れている。そして偶に生暖かく湿った舌がボタンを外す弾みに己の肌に触れる。
 すべてのボタンを舌で外すつもりらしいガウリイは、ミルガズィアの肩に掛けた手をボタンが外れるのと一緒にゆっくりと下へと降ろしていき服を脱がせていく。

 自分の腹部まで頭を降ろしてきたガウリイのシャツにミルガズィアが手を掛けると、チラリと視線をガウリイが投げかけた。
「……まだ」
 その言葉を紡ぐと、ガウリイは最後のボタンを口に含む。
「……ん、ぁ」
 濡れた唇をボタンから外すと、ガウリイはするりと服をミルガズィアから剥がした。
 そして体を起こして、艶やかに微笑み腕を動かす。
 その手が動ききる前に、中断されることになる。


 トントントンッ。

 ニヤリ。
 と笑みを浮かべたのはガウリイ。

「フォロー、よろしく」
「…はっ?」


「ちょっとガウリイ!!居るんでしょ!!」
 ドンドン、とドアを叩く音と共に聞こえてくるリナの声。
 その声は祭り会場に置いてけぼりを食らって、明らかに怒りを含んでいる。

 扉を見たまま固まっているミルガズィアの肩をガウリイが押す。
「よろしく」
 再び重ねられた言葉に、ミルガズィアが抗議をしようガウリイを見れば、ガウリイは自分の胸に手を当ててミルガズィアが行為の最中に付けた跡を示しながら笑った。

「ほら、俺って誰かさんのお蔭でこんな格好じゃん。とてもリナの前になんて立てないって」

 それには返す言葉もなく、ミルガズィアはただ捨て台詞のように「奉仕の方は奮発してもらうからな」と呟くことしか出来なかった。
 そして一度腹を括ったミルガズィアの行動は早く、ベッドの上から床に降り立つと、素早くズボンを穿いて上着だけを羽織りながら、先ほどから叩き続けられているドアへと向かう。
 その後ろ姿をガウリイは面白そうに見送る。


 ガチャ。

「ちょっとガウリイ……。ミ、ルさん…!?」
 ドアの前で呆けているリナを、その視界にガウリイが入らないように廊下の方に追いやると自分も廊下へと出る。
「なんでミルさんがここに!?」
 顔一杯に疑問符を浮かべている少女に、呼吸一つをついて取り繕う。

「人の新年の祭りというものに興味があってな、祭り見物に来ていたんだ。そこでガウリイと会って酒を酌み交わしているうちに泥酔させてしまったのだ」
 スラスラと言葉は出てきたが、ミルガズィア背中には冷や汗が流れていた。

「はぁ…」
 まだ疑問符を浮かべたまま、リナは気の抜けたような相槌を打つ。
「取り合えず部屋まで連れてきて介抱していたんだが、お前に連絡するのを忘れていた」
 すまん、とリナに頭を下げると、相手ははっとしたように眼を開きあわててパタパタと手を振った。
「いいです、そんな。それよりすいません。ガウリイが迷惑かけちゃって」
 ワタワタとする彼女に、もうひと押し、とばかりに言葉を続ける。
「何かガウリイに用があるなら連れて来るが、今ちょうど服を着替えさせていたので、少し待って貰えると助かるが…」
 首をぶんぶんと振るリナの姿に、この局面を乗り切れたことをミルガズィアは確信した。

「ガウリイは丈夫に出来てるんで、適当に放っておいていいですよ」
 2つ3つ世間話をした後、リナはそう言って隣の部屋へと入っていった。
 その扉が完全に閉まり、カギを掛ける音がしてからミルガズィアは部屋へと戻った。
 もちろん鍵をかけ、防音のため結界も張る。


 ベッドの上で一連の会話を聞いていたガウリイは、ぽそりと「俺のせいかよ」と漏らしながらも、急場を乗り切ったミルガズィアに感嘆する。
 そしてドアを閉め戻ってきたミルガズィアに笑みを向ける。
 そのまま押し倒されるのかとガウリイが身構えるていると、ミルガズィアはベッドにやって来たあとガウリイに背を向け、その端にどっかりと腰を下ろした。

「冷や汗ものだったぞ………。はっきり言えば…萎えた…」
 ぷっ、とミルガズィアの後ろで吹き出すガウリイ。いつもならそこで相手からの反応があるのだが、よほど疲れたのか反応は無かった。

 ミルガズィアの後ろで膝立ちになったガウリイは、クスクスと笑いながら広い背中へと凭れかかった。
「どうした?」
 振り返ろうとした視線の前を白いシャツを纏った腕が通り過ぎていき、ミルガズィアの前で交差されその体を後ろから抱きしめる。
 ガウリイがミルガズィアの頭に自身の頭を数度摺り寄せる。

 そのまま、目の前にある尖った耳に唇を寄せて囁いた。

「上着を羽織るあんたの後姿。……かっこよかったぜ」

 キスをおまけに付けて。


つづく


ブログにて2012年2月4日掲載

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