王様ゲーム





 ある宿屋の一室にリナ達は集まっていた。
 円になって座っている彼らの表情は様々で、楽しそうにしている者、今にも溜息が出そうなほど憂鬱そうにしている者、あるいは明らかに何かを企んでいるであろう不敵な笑みを浮かべている者等々、この空間には様々な感情が入り混じっているのは間違いない。
 その場で、事の発端であるリナとアメリアは楽しそうに棒に数字を書き入れて筒の中に入れていく。



「1、2、3、4、5、6、7と、ちゃんと人数分あるわね。じゃあここから一本ずつ取ってね」



 そう、彼女らは『王様ゲーム』を行おうとしていたのだ。
 昼間から王様ゲームの話をしていたリナとアメリアだったが、話しているうちにどうしても実際にしたくなって、集められるだけの人間を集めたというわけである。人間でないのも混じっているが、ゲームをする上で問題ないので、頭数に入れられてしまっている。
 ちなみに7人とは、リナ、ガウリイ、ゼルガディス、アメリア、ゼロス、フィリア、ヴァルガーヴである。


 筒から皆が一本ずつ取り、最後にリナとアメリアが取った。


『王様だ〜れだ!!』


「あ、あたしだ」
 そう言って手を上げたのはリナだった。
「……お前さん、なにかずるい事してないか……」
 横からじと目で見るガウリイをスリッパでペチリと叩いて、リナは胸を張った。
「こ・れ・が、私の実力なのよ!!」
「あー、はいはい、で、王様は何を?」
 フィリアの言葉に、う〜ん、と少し考えた後、ニヤリと笑った。

「じゃあ、2番、ケーキ買って来て」
 横には自分の番号を確認しているガウリイ。そして思い当たり顔を上げる。
「お前、さっき見ただろう〜!!」
 目を逸らして笑っているリナ。
 しょうがないな、と思い、たいした事でもないので、ガウリイは座っていた床から立ち上がって扉へと向かう。
「チョコレートケーキとミルフィーユね」
「あ、私もケーキ食べたいです」
「……、適当に買ってくるから」
 明るく「よろしく〜」とパタパタと手を振っている仲間達をあとに、ガウリイは部屋を出た。



 ガウリイがいない間も王様ゲームは続き、いつの間にか持ち込まれたアルコールで、異常にテンションの高い集団が出来上がっていた。
 ケーキ屋が遠くにあったため、ガウリイはかなり時間がたってから戻ってきたのだが、そのときにはゼロスが大きな猫から人型に戻った瞬間だった。

「……、な、なんだ今の?」
 それに、戸口近くに座っていたフィリアが答えてくれた。
「今のはですねぇ〜、猫のまね、ってゼルガディスさんが言ったら、ゼロスが猫になっていたんですぅ〜」
 微妙にいつもと違う彼女の様子に周りを見れば、軽い者から重い者まで、とりあえず皆アルコールが入っているようで、何本か空になった酒瓶も転がっている。
 どうしようかと一瞬歩みを止めたガウリイだったが、ガウリイに気がついたリナが手招きをするので、そちらに歩み寄る。

「ミルフィーユ、売り切れてたぞ。代わりの奴買って来たから、それでいいだろ」
「う〜ん、ミルフィーユ食べたかったんだけどなぁ。まあ、いいや。で、何買ってきたの」
 ガウリイがケーキを買ってきたので、ゲームは一時中断になったらしく、みんながガウリイのそばに寄ってきた。
 ケーキの箱を開けると、そこには小さなケーキがいくつかと、大きなイチゴのホールケーキが入っていた。
「これ誰の?」
「ああ、途中で何人分とか考えるのが面倒になったから、これを買ってきた」
「これ、あたしの〜」
 そう言ってホールケーキに手を伸ばそうとするリナを制して、ガウリイはフィリアが自分のティーセットから出したナイフで手早くケーキを切り分け各々にケーキを配った。早くしないとリナに全部食べられてしまう、と思いながら。
 ガウリイも皆と同じように、ケーキをつつきながら果実酒のソーダ割りを飲み、酔いの回ってきている周りを見て、そろそろお開きにした方がいいんじゃないかと思ったが、周囲の楽しそうな様子に言い出せないでいた。

 結構量のあるように見えたケーキも7人だとあっという間に無くなり、ゲーム再開となった。
「もう遅いし、これを最後にした方がいいんじゃないか?」
 そうまるでガウリイの気持ちを代弁するかのように言ったのは、常識人のゼルガディスだった。隅の方では、この状況に困っていたらしいヴァルガーヴも頷いている。
「え〜、でも〜」
「また今度すればいいじゃないか」
 そのガウリイの言葉に、渋っていたリナとアメリアもしぶしぶ承諾し、今日最後のゲームとなった。
「じゃあ、くじ引いていってください〜」

『王様だ〜れだ!!』


「は〜い!じゃあ〜6番と1番がキス!!!」
 むやみやたらと明るいゼロスの声に固まる人々。キスとかそういったネタは言うのも恥ずかしいのと、誰と誰がするのか分からないのが不安だったので避けていたのだが、ゼロスは「最後ですし、ここは基本に忠実に……」などと言っている。
 ゼロス以外は、恐る恐る自分の番号を確認する。

「うわ!6番だ!」
 そう言って頭を抱えたのはヴァルガーヴ。

「げ!1番じゃん!」
 そう言って椅子を倒すほどの勢いで立ち上がったのはガウリイ。

「……えっと……」
 自分ではなかったことに安堵しつつも、目の前の組み合わせに、どうしたものかと悩む者と、どうせならキスしちゃえ、と酔っているせいもあり思っている者。
 それと、事の成り行きを面白そうに見ているゼロス。

「……分かった」

 神妙な顔をして立ち上がったヴァルガーヴに一斉に皆の視線が集まり、次に思いっきり引いているガウリイに視線が集中した。

「えっ……」

 近づいて来るヴァルガーヴを見つめて、ガウリイは硬直している。
 それほど大きい部屋でもないので、5歩も歩けば目の前に強張っている、というよりも驚いているガウリイがいた。
 ガウリイは、ヴァルガーヴが纏っている異常な気迫に気圧されるようにして床にへたり込んだ。

 そのガウリイを追いかけるようにして、ヴァルガーヴは片膝を床に着きガウリイの肩に左手を置いた。
 周囲が言葉も無く見守る中、2人の唇が近づき……。


「ぎゃーっ!!!」


 叫び声と同時にヴァルガーヴは突き飛ばされ床に尻餅をつき、周囲は急な大声に息が止まるほどに驚き、ゼロスは腹を抱えて笑っていた。

「な、何をするんだ、ガウリイ!!」
 ひどく打ち付けた尻をさすりながらヴァルガーヴは起き上がり、当然抗議した。ツボにはまったらしいゼロスはまだ笑い続けている。
「だ、だってお…、お前……、き、キ……、キス……」

 文章にはなっていないが、何が言いたいのかは分かる言葉に、ヴァルガーヴは溜息をつく。どうやら直前になってフリーズしていた頭が働き出したらしい。
 ヴァルガーヴを突き飛ばした手を、まるでヴァルガーヴを追い払おうとするかのように無駄にパタパタと動かしている。
「さっさと終わらせた方が楽だろう。こんなこと……」
 説得するように言っても、ガウリイは釈然としないようだったが、それでも一応大人しくはなった。
 ヴァルガーヴは自分の言葉どおり、さっさと済ませるつもりらしくさっきと同じようにガウリイの肩に左手を掛け、さっきのように突き飛ばされないように自分の体重をその手に掛けた。 そして再び言葉も無いままに周囲が見守り、ゼロスはまだ笑いが抜けないらしく半笑いのまま2人を見ている。
 再び、2人の唇重なろうとしたそのとき、ガウリイが自分を支えるために床についていた腕が急にカクンと折れ……。


 ゴンッ。


「…………ツ!?」
「…………!?」
「あはっ、あっははは……」


 ガウリイが倒れたせいで、まずガウリイが後頭部を床で打ち、その反動でおでこをヴァルガーヴにぶつけてしまった。2人とも痛さで言葉が出ず、それぞれぶつけた場所を押さえてうずくまった。
 周囲は倒れこんでいく2人を見ていたので驚くことは無かったが、哀れみのこもった視線を2人に向けた。この場合何が哀れまれるべき事なのかは置いとくとして。
 そしてまたツボにはまったらしいゼロスは、一人で腹を抱えて笑い転げている。


「……、あの、お2人もかわいそうなので、もうこれで終わりにしてあげたら……」


 そう言ったのはフィリアで、ガウリイは地獄の中で仏に出会ったかのように、フィリアに感謝する。
「そうですねぇ。これはこれで面白かったので、良しとしますか」
 その言葉に当事者の2人のみならず、周囲もほっと一息ついた。何しろこの場の冗談のはずなのにひどく切羽詰った空気は、とても居心地が悪かったから。
 その場の流れで、上手く王様ゲームも終了して、それぞれの部屋へと戻ることになった。
 その途中、ヴァルガーヴがボソッとガウリイに呟いた。

「ガウリイが協力してくれれば、さっさとすんだのに……」
「え、でも……」
「ゼロスに借りを作ってしまったみたいで、嫌なんだよ」
「……すまん」
 ゼロスに借りを作るのと、キスをするのとどっちがましなんだろうと思いながらも、とりあえず謝っておくことにしたガウリイだった。




end

いきなり次回予告 ではこんな文章でした

  「王様だ〜れだ!!」
  ゼロス「は〜い!じゃあ〜6番と1番がキス!!!」
  ヴァルガーヴ「うわ6番だ!」
  ガウリイ「げ!1番じゃん!」
 友情が愛情にかわる瞬間だった



 見た瞬間に「うわ〜、使えるこれ」と思ってしまいました。


こんなのじゃ物足りない、という方にはこちらをどうぞ。いわゆる18禁です。


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